「介護の研究をしよう!」と思っても,なかなかテーマを決められない,という人もいるだろう。
このブログの読者からも,「研究はしたいけど,何を研究していいのかわからない。」という声を何度かいただいた。
そこで,研究のテーマについて,少し書いてみたいと思う。
目次
研究テーマの決め方
「介護研究の進め方(リサーチクエスチョンを立てる)」でも書いたように,研究テーマは,実際のところ何を選んでも良い。普段の介護における素朴な疑問であれば,なお良いと筆者は考えている。「そんなこと言われても・・・」という声が聞こえてきそうだけど,本当に何でもいいのだ。
「介護研究の進め方(リサーチクエスチョンを立てる)」では,どんな風にテーマを決めればよいのか,普段の仕事でリサさんが疑問に思っていることをケンゴ先輩が尋ねながら,研究テーマを絞っていった。
実際には,ケンゴさんのような人は身近にいないだろうから,ノートなりエクセルなりに,自分がいま疑問に思っていることを文章化して,自分で自分に問いかけると良いかもしれない。
「いま,疑問に感じていることはどんなこと?」
「具体的に,それのどういう部分を疑問に感じているんだろう。」
「その中で,何を研究すればいいんだろう?」
という内容を自問自答することで,研究テーマが決められ,リサーチクエスチョンも固まってくる。
研究テーマ,っていうのは,本当にどんなものでも研究テーマになるので,何を選んでも構わない。
こんな風に考えると,逆にいろんなテーマが出過ぎて,「何から研究したらいいのかわからない」と思うかもしれない。
正直,何からはじめてもいい。
特に,「研究なんて,まったくやったことがない!」という人は,「研究を経験する」ということが大事なので,
どれが研究に向いているかどうか,なんて考えずに,まず研究してみる,ということをお勧めする。
実際に,研究をすることで,研究のやり方が自然に身につき,リサさんのように,テーマが浮かんだ時点で,研究の手法も思い浮かぶようになると思う。
「なんでも研究することができる」からと言って,ここで何もヒントを出さないのも気は引けてしまう。
そこで,少し介護福祉の研究のテーマとなりそうな具体例を少し挙げてみる。
介入の効果をみる
例えば,特定の利用者さんや複数の利用者さんに対して,ある介入を行った効果を研究する方法がある。
「介護研究 条件を比較する」
「寝たきりの利用者への名前の呼びかけについて検討する」
「介護研究ーABABデザインを用いた研究ー①」
「介護研究ーABABデザインを用いた研究ー②」
「寝たきりの高齢者へレク活動ーボディソニックの検討ー」
「音楽療法の効果を検証するーマルチベースラインデザインー」
では,実際に利用者さんに対して,足浴を実施したり,名前の呼びかけを工夫したりして,その効果を検討する例を書いた。
このような研究で重要なのは,新しい取り組みを行う前の状態(ベースライン)と,介入をした効果を比較することだ。
そのためには,「その効果を示すために,何を記録しなければいけないのか?」ということを介入前から考える必要がある。
そして,介入前からそれを記録して,ベースラインの状態を確認して,介入後と比較するという手順になる。
もう一つの方法は,「介入するグループ(実験群)」と「介入しないグループ(統制群)」をつくるという方法もある。
「音楽療法の効果を検証するーマルチベースラインデザインー」では,そのようなやり方について,書いてある。
心理学の実験などでは実験群と統制群を比較するだけで終わってしまうことが多いが,実際の介護現場でそれをやってしまうと,何もしない統制群に対して,不公平なケアになってしまう可能性がある。
「音楽療法の効果を検証するーマルチベースラインデザインー」では,その問題を解決できるような手法を示している。
ここで,介入の効果を研究するテーマの一例を並べてみよう。
・音楽療法の効果を検討する
・食事介助のチームアプローチの効果
・入浴介助時の新しい声掛けの方法の効果
・居室,デイルームでのBGMの効果
・家族が来た日と,来てない日の利用者の違い
・食事環境を工夫した効果
・排せつ介助時の工夫の効果
・レクリエーションでの工夫の効果
いくらでも研究テーマは挙げられるが,「介入」という言葉ではなく,日頃行っている「工夫」したことの効果を研究する,と言えば,もしかしたらイメージが付きやすい人もいるのかもしれない。
普段の状態を研究する
介入そのものの効果ではなく,普段の状態についての研究もある。
いままで書いた記事では,
「介護研究-アンケート調査の方法-①」
「介護研究-アンケート調査の方法-②」
などがその例になるかもしれない。
この記事は,(利用者ではないけど)職員の普段の仕事のストレスについて研究する方法を書いた。
ここでは,男性と女性を比較したり,ベテランと新人を比較したりしたが,このようにその人の属性で比較するという方法もある。
利用者を対象にした調査でも,男性と女性,年齢,要介護度,アルツハイマー型認知症とその他などのように,いくつかの属性で比較する方法もあるだろう。
研究例としては,以下のようなものが挙げられる。
・入浴拒否が起こりやすい人と起こりにくい人
・利用者による食事量の違い
・リハビリに積極的な人と消極的な人の違い
・介護拒否が起こりやすい人と起こりにくい人の違い
・レクリエーションに積極的な人と消極的な人の違い
普段の状態を調べるだけでも十分に研究とは呼べるが,このように「どのような人が」,「どのような特徴があるのか」を研究すれば,今後の介護に役に立つ研究ができるかもしれない。
研究対象者も様々
介護の研究対象は,利用者に限った話ではない。
例えば職員や家族なども研究対象となりうる。
「介護研究-アンケート調査の方法-①」
「介護研究-アンケート調査の方法-②」
では,職員を対象とした研究を紹介している。
研究例としては,以下のようなものが考えられる。
・職種による,介護観の違い
・食事介助時の介護職と看護師のアプローチの違い
・介護職リーダーと初心者の利用者への声掛けの違い
・施設によく来る家族の特徴
・介護実習生のよりよい教育
・ボランティアの人の介護観
実際に利用者の方は,インタビューやアンケートに答えることが難しいことがあるかもしれない。
しかし,利用者以外の人であれば,インタビューやアンケートの手法を使うことも可能となってくる。
まとめ
このように,研究の例はたくさんある。
ここに挙げた例をみて,「え,こんなことが研究になるの?」と思った人もいるかもしれない。
そう,実際に,「こんなのあたりまえじゃん」と思っているようなことでも,実際にデータをとって,それを明らかにすることができれば,それは立派な研究になる。
また,介護の業界で「当たり前」と思っていることが,実は他の分野では「あたりまえでない」ことはたくさんある。
もしかしたら,他の施設でさえ,「とても新しいこと」の可能性だってある。
実際,科学の研究であっても「あたりまえ」といわれるようなことをデータをとって示すことで,論文になっているものがたくさんある。
テーマを選ぶうえで,重要なのは,いまあなたが一番興味があることをテーマにすること。
そして,それについて,
「いま,疑問に感じていることはどんなこと?」
「具体的に,それのどういう部分を疑問に感じているんだろう。」
「その中で,何を研究すればいいんだろう?」
とリサーチクエスチョンを深めて,研究することだと思う。
他の研究方法は,「自分たちの介護を研究したい!研究方法のまとめ」でまとめていますので,参考になさってください。
できれば多くの方に読んでいただきたいと思っております。
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