デイサービスに協力していただき,「お仕事ポイント」の研究を行いました。(4)

投稿者: | 2021年3月5日

デイサービスに協力していただき,「お仕事ポイント」の研究を行いました。(3)の続きです。

プログラムの経過

「デイサービスの中は,動きも会話も少なかった。
なぜなら,職員数が少ないことを理由に,全体的な見渡す見守りを中心としていた。
利用者同士も隣席同士でも話すことは少なかった。」

デイサービス相談員の記録によれば,プログラム開始前の状況はこのようなものだった。

POPの効果

まず,テーブルの上にPOPを置くと,利用者が手に取って読まれる姿が確認された。
なかには,「おもしろいことを考えるねえ。」と言われた方もいた。
退屈そうな利用者さんが,目の前にあるPOPを何気なく手に取って読んでいる姿は,介護職の方なら想像できるのではないだろうか。

POPという形にすることで,いくつか大きな効果があることがわかった。

まず,プログラムの内容を周知できる。
これは,認知症の方に対しても有効な方法である。

もう1つは,他の人が何かをやっているときに,それが「お仕事」だと他の利用者が理解できる,ということだ。
プログラムの内容が共有されることにより,「他の利用者が何をやっているのかわかる。」ということは実は重要なことだ。

例えば,上の写真は,テーブル拭きを行っている利用者を撮影したものだが,右側に写っている利用者は,テーブルの上のものを持ってくれて,「お手伝い」をしてくれている。

「利用者同士も隣席同士でも話すことは少なかった。」
そのような状況を考えると,大きな変化だと考えられる。

活性化される利用者

デイサービス相談員の記録から,まず利用者から職員への働きかけが活性化したことが伺えた。何気なくお盆にコップを置いてもらったときに「1ポイントやね」と言われたり,食後に「テーブルを拭こうか」,「〇〇さんと一緒にタオルをたたみましたよ。〇〇さんにポイントをあげて」と職員に声をかけてくれるなど,利用者の方から積極的に職員に声をかけてくるようになった。

上の写真はみんなでエプロンたたみをしている様子であるが,これは最初一人の利用者しかやっていなかった。
しかし,それを見ていた他の利用者が,「自分もやりたい」と職員に申し出て,結果そのテーブルの利用者はみんなでたたむようになったという。

また,利用者同士のコミュニケーションも大幅に活性化した。

利用者同士で,おやつの時に「終わりましたか」と声をかける,
ごみ箱づくりで他利用者に「きっちり折ってるね。すごいわ。」と褒め合う,
利用者同士で作り方を教え合ったりする。

デイの利用回数が少ない人がいれば,その人に仕事をゆずる,
「あの人の字は読みやすいから,ホワイトボード書きがいいわ」と推薦する,
「ポイントカード,もう2冊目なの?」とお互いに影響を受ける。

1週間もすると,お仕事ポイントが,利用者の共通の話題になっていた。

プログラムの結果

プログラムは,デイサービスで約1か月間実施された(日祝を除く23日間)。

目標値としていた50ポイントを達成した利用者は,約1か月という短い期間でありながら,6名おり,プログラム終了時にはこの6名に感謝状とポイントに応じた箱ティッシュが贈呈された。

本プログラムは競争ではないことから,順位づけ等は行わなかったが,獲得ポイント数を発表し,他利用者の前で職員の感謝の言葉と共に,感謝状が贈られた。

利用者へのアンケート調査

本プログラムを開始する前後で,利用者に対してアンケート調査を行った。アンケート内容は,主観的健康感,主観的幸福感,WHO-5精神的健康状態表(稲垣ら,2013),人生満足度尺度(大石,2009)である。

アンケートは,プログラムを始める前に事前に聴き取りしたものと,1か月のプログラム終了直後に,聴き取りしたものとを比較した。
対象者は,デイサービス利用者のうち,言語的な会話が可能な方である。(認知症の方も含んでいる。)

プログラムに参加し,プログラム開始前後のアンケートに協力を得られた13名(男性2名,女性11名)を分析対象とした。調査対象者の獲得ポイントは3~150ポイント(平均52.31ポイント,中央値42ポイント),50ポイント以上獲得した者は5名であった。

調査の結果,主観的健康感,主観的幸福感,人生満足度についてはプログラムの前後で変化は認められなかったが,WHO-5精神的健康状態については,プログラム前と比較してプログラム後に高くなっており,有意差が認められた(下図,t(12) = 2.42, p < .05)。

たった1か月の期間でも,本プログラムにより利用者の精神的健康感が上昇したという結果は,ちょっと驚きである。

この結果にはいくつかの要因が考えられる。

まず,利用者が自身の役割を認識することにより,生きがい等を感じて精神的健康状態が改善した可能性。
施設全体が活気づいた結果,利用者の精神的健康状態が改善した可能性。
利用者が施設を「単に介助を受ける場所」ではなく,施設のとらえ方が変化した可能性。
職員側も利用者観の変化があり,日々の介護に影響を受けた結果,精神的健康状態が改善した可能性も考えられる。
もちろん,これらが複合的な要因となっている可能性も考えられる。

いずれにせよ,たった1か月の本プログラムの実践により利用者の精神的健康感が向上したことは確実であり,その意義は大きい。

デイサービスに協力していただき,「お仕事ポイント」の研究を行いました。(5)に続きます。

本記事の内容は,栗延孟(2020)「要介護高齢者が自身の役割を意識できるプログラムの開発と効果の検証-デイサービスにおけるお仕事ポイントプログラムの取り組み―」.日本文理大学紀要48(1),55-63.に加筆修正を加えたものです。