介護研究ーABABデザインを用いた研究ー②

投稿者: | 2018年5月2日

前回(介護研究ーABABデザインを用いた研究ー①),Aさんに,時間を早めて入浴してもらい,入浴拒否が減らすことができたリサさんとアキラさん。
しかし,「それはAさんがうちの施設に慣れたからじゃないの?」と施設長は納得してくれません。

施設長に納得してもらうにはどうしたらよいのでしょうか?
前回の続きのお話です。

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ABABデザイン

「ほんと,施設長,むかつく!」
アキラさんは,リサさんに愚痴をこぼします。

「まあまあ,施設長の意見に誰も反論できなかったわけだし。たしかになあ,と思った。」
「なに?リサさんも施設長の肩を持つの?」
「別にそういうわけじゃないけど。今回のデータじゃあ,時間を早めた効果をきちんと説明することは出来ないんだなあ,って。それは反省してる。」

「ちょっといいかな。」

PTのマナブさんが,二人に声をかけました。マナブさんも先ほどの会議に参加していました。

「さっきのAさんの入浴のことなんだけどさ。」
「はい。」
「施設長が,一回もとに戻せって言って,結局そうすることになったじゃない?その間もきちんとデータを取れば,時間を早めた効果を説明できると思うんだ。」
「え?そうなんですか?」
「うん,ABABデザインって言うんだけど。」
「ABABデザイン?」

二人は不思議そうな顔をしています。

「うん,ABABデザイン。順を追って説明するね。
まず,二人は,時間を早める前のデータをきちんと取った。これはすごく良かったと思うよ。
じゃあ,時間を早める前,Aさんがみんなと一緒にお風呂に入る条件,これをAデザインと呼ぼう。その後に,時間を早めてAさんが一人で入浴できるようにした。これがBデザイン
Aデザインと比較して,Bデザインの方が,入浴拒否は減った,という結果が出たよね。」
「はい,明らかに入浴拒否は減りました。」
「そうだね。でも,施設長が言うように,これはAさんがうちの施設に慣れたからとか,暑くなってきたからとか,他の要因も考えられる。」
「はい。」

「じゃあ,施設長が言うように,もう一度Aさんにみんなと同じ時間に入ってもらう。これで,ABAと来たね。
もしこれで,また入浴拒否が増えれば,施設に慣れたからとか,暑くなってきたからって言いにくくなる。」
「あ,そうかあ。」
「それでね,もう一度Bデザインに戻す。これがABABデザイン。もし,もう一度Bデザインに戻して,入浴拒否が少なくなれば,他の要因は考えにくくなるよね?」
「なるほど~。」

ABABデザインは,単一事例で介入の効果を検討するために用いられる実験デザインです。例えば,症例数の少ない病気や障害の方への介入研究,特殊な事例での介入研究によく用いられます。マナブさんの説明のように,ABデザインだけだと結果に及ぼす要因として,他の要因も考えられますが,ABABデザインにすることでその要因をできるだけ排除することができます。ただし,一度Aデザインに戻さないといけないので,現場などで用いるのは難しい場面もあります。

「じゃあ,Aさんにはちょっと申し訳ない気もするけど,施設長が言うように,いったんみんなと一緒にお風呂に入ってもらおうか。」
アキラさんもしぶしぶ納得しました。

Aさんのその後

「お手元の資料のように,Aさんは入浴時間を他の利用者さんと同じ時間に戻したら,以前ほどではありませんが,入浴拒否をする回数が増えました。そこで,まだ時間を1時間早めると,入浴拒否の回数は減らすことができました。
具体的には,最初他の利用者さんと同じ時間に入っていた時は,入浴拒否の回数が平均2.8回,その後時間を減らすと入浴拒否の平均は0.6回,また時間を戻すと入浴拒否の平均は1.5回,その後時間を1時間早めると入浴拒否の平均は0.5回でした。
最初他の利用者さんと同じ時間に入っていたころと比べると,その後他の利用者さんと同じ時間に入っても入浴拒否の回数は少なくなりましたが,これは施設長がおっしゃっていたように,施設への慣れなどの原因が考えられます。実際,Aさんも仲の良い利用者さんも増え,この期間に入浴されたときはその利用者さんに『一緒に入ろうよ』と誘われて入浴されていました。ただAさんはそれでも浴場に行くと,『今日は調子が悪いからいいわ』とおっしゃる場面もありました。
今回の結果から,やはりAさんにとっては,他の利用者さんと別の時間に入浴した方が,入りやすいし,リラックスできるのだと思います。」

今度は,アキラさんは自信を持って発表することができました。

「よしわかった。ケンゴさん,Aさんが一人で入浴する時間でも,フロアは大丈夫なんだね?」
「はい,ここしばらくAさんの入浴は一人でできるように調整していますが,フロアの方は大丈夫です。」
「よし。良い報告ありがとう。また,今回のように,きちんとデータに基づいた報告を期待しているよ。」

リサさんもアキラさんも,施設長のこの言葉を聴いて,ほっとしました。

おわりに

先に書いたように,ABABデザインは,単一事例で介入の効果を検討するために用いられる実験デザインです。ABABと繰り返すことで,単一事例であっても介入の効果を検討できるというメリットがあります。でも今回のように,いったんAデザインに戻さないといけない,また効果を検討するためにはある程度の期間が必要になるというデメリットもあります。

実際に,筆者がABABデザインで行った研究は,「寝たきりの高齢者へレク活動ーボディソニックの検討ー」で書いているので参考にしてもらいたい。ABABデザインで研究する時の工夫点なども書いている。

研究方法にはそれぞれメリット・デメリットがあるので,どのような方法が適切か検討してみてください。
どのような研究方法があるのかは「自分たちの介護を研究したい!研究方法のまとめ」を読んでいただければ,いくつかの選択肢があるかと思います。


できれるだけ多くの方に読んでいただきたいと思っております。
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介護研究ーABABデザインを用いた研究ー②」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 自分たちの介護を研究したい!研究方法のまとめ – ひとにやさしくじぶんにやさしく

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