寝たきりの利用者への名前の呼びかけについて検討する

投稿者: | 2018年4月29日

介護研究 条件を比較する」では,研究をする上で,条件による違いについてどのように検討したらよいか説明した。
ここでは,実際に筆者が行った研究も紹介しながら,さらに条件の比較について理解を深めてもらいたい。
また,研究をする上での注意事項なんかについても説明できればと思っている。

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筆者の論文の紹介

まず,紹介する筆者の論文だが,これは筆者の博士学位論文であり,web上でも公開されている(「重度認知症高齢者に対する働きかけについての一考察:聴覚・触覚刺激を中心として」)。いま読み返してみると,本当に拙い文章で,構成もわかりづらく,めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。でも,研究の方法や研究をする時の流れの理解に,役立ってもらえるんなら,ということで,紹介することにした。

内容は,アルツハイマー型認知症が重度化して,寝たきりとなって,言葉による反応や行動・表情などの反応も見られにくい高齢者が,周囲からの働きかけ,特に名前の呼びかけに対して,どのように反応しているのか,何とか検討してみようというものだ。

筆者は,当時介護福祉士であり,介護の仕事をしながら大学院で研究活動を行っていた。施設の中では,寝たきりの利用者に対しても当然のように声掛けをしながら介助していたけど,でもその声掛けが本当に届いているのかどうか,介護スタッフはわからない。
実際,いろいろ調べてみると,そのような利用者への介助について,「これでいいのか」と不安を感じている介護職員もいることがわかってきた。

そこでいろいろと調べてみて,心拍の反応から,声掛けへの反応を検討できないか,ということで,やってみた研究だ。(第3章の部分)

研究の準備

研究計画

介護研究の進め方(研究計画を立てる)」にも書いた通り,まず研究計画を立てた。

まず,寝たきりの利用者さんの心拍数を測る。
心拍数は,音刺激が取り込まれると,一瞬減速する。そして,それが「自分と関連する刺激だ」と認識できれば,平常状態より加速する。この一時的な「減速ー加速」の反応が,寝たきりの利用者の名前を呼びかけた時に見られれば,その利用者さんに私たちの声が届いていると推測できる。

そこで,研究計画では,寝たきりの利用者さんの近くにスピーカーを置き,スピーカーから「○○さん」と呼びかける声と,それと同じ音量のホワイトノイズ(テレビの砂嵐などで流れるザーッという音)をランダムに流すことにした。

実際に呼びかけるのではなく,録音した「○○さん」という声を使ったのは,音量を一定にする事,ホワイトノイズの音と音量を一緒にするためだ。

もし,実際に呼びかけて,その時々で声の音量が違って,「声掛けとホワイトノイズで反応が違う」という結果が出たとしても,それが「声掛け」の効果なのか,「音量の違い」による効果なのかわからない。
「音に反応しているのか」,それとも「声掛けに反応しているのか」を検討するために,この時はホワイトノイズと録音した声掛けで比較することにした。

そういうわけで,あらかじめ「○○さん」と呼びかける声を録音して,その声とホワイトノイズをランダムに,寝たきりの利用者さんに何回か聴いてもらって,その時の心拍反応を測ることにした。

倫理審査

人を対象にする研究は,多くの場合,その計画や同意・説明の方法で,参加者に不利益がないか,危険がないか,倫理審査が行われる。
実際の倫理審査は,その人が所属している大学や研究機関で行われることが多い。
もし,研究しようとしているけど,自分が所属している機関に倫理審査委員会がない場合は,周囲の研究に協力してくれそうな人にお願いして共同研究者になってもらい,その人の所属で倫理審査を行ってもらうのも一つの手だろう。

当時は,自分が所属している大学に倫理審査委員会があったので,研究計画書,施設と利用者家族への説明書と同意書を提出して,倫理審査を行ってもらった。

説明と同意

無事,倫理審査が承認されて,それからが大変だった。

自分が勤務していた施設,知り合いが勤務している施設,あるいは自分がいた大学院の近くの施設に電話をかけて,研究できないかどうかいろいろとアポを取った。研究の計画を説明し,まず施設として受けれ入れてもらえるかどうか打診した。

これが結構難関で,なかなかOKしてくれる施設が見つからなかった。それぞれの施設長などに説明して,書面で同意書を書いてもらった。
そして,施設に対象となる利用者を選定してもらい,そのご家族にも書面によって説明を行い,同意書を書いてもらった。

同意書には,研究の説明と一緒に,
・個人情報などは決して漏らさないこと
・この研究参加は任意であり,研究に協力しない場合であっても,決して不利益を受けないこと
・同意書にサインした後,また研究終了後であっても,同意はいつでも撤回できること
などを明記した。

特に,今回の研究は施設に紹介してもらって家族から同意を得ているので,家族側からしてみれば「施設からお願いされた」と感じる可能性がある。だから,「断ったら,悪いかもしれない。」と思われる可能性があったので,その部分はかなり重点を置いて説明した。

本当は,10名以上の方を参加者としたかったけど,実際に行ってみたらご本人が体調不良だったり,施設で感染症がはやってしまい,研究を実施できない,なんていうこともあって,結局参加者は8名だった。

研究の結果

スピーカーと音源,スピーカーを設置する台,心拍計とそれをモニターできる機械を持って,各施設を何日が回った。

スーツケースにそれらの機材を入れて,電車で移動するのは,結構大変だった。
当時は真夏で,暑い中手伝ってくれた院生と二人で,施設までスーツケースを引きながら歩いていたことをよく覚えている。

そうやって苦労してデータを集めた結果,8名の参加者のうち7名は,声掛けやホワイトノイズを流した後に,心拍の変化が認められた。この7名については,少なくとも外部の音刺激に何らかの反応を示していることが考えられた。

また,4名については,声掛けとホワイトノイズで違うパターンが確認された。つまり,ホワイトノイズと比べて,声掛けには特殊な反応を示しているということだ。

実際,この結果だけでは,「自分の名前が呼ばれたことに対する反応なのか」,「人の声に対する反応なのか」を明らかにすることはできない。あー,失敗したなあ,と思った。研究計画をもっときちんと立てていれば,そこもきちんとわけることができたはずだ。

でもとりあえずわかったのは,寝たきりとなって反応が見られにくくても,外部の音刺激に対しては反応している人はいること,そして声掛けに対して反応する方も一定数いる,ということだった。

個人的には,これを示せたことは,かなり重要なことだった。この結果から,「ほら,寝たきりでも音には反応してるんだよ!声掛けに反応している人もいるんだよ!」ということを示せたからだ。

ただ,そうじゃない人もいる。じゃあ,そういう人にどうやって働きかけたらよいか,ということで,引き続き肩に手を触れながらの声掛けについても同じように検討してみた。

この時の条件は,「名前の呼びかけ」,「利用者の肩に触れる」,「利用者の肩に触れながらの声掛け」だった。
そうすると,単なる「名前の呼びかけ」や「利用者の肩に触れる」だけでは反応が見られなくても,「肩に触れながらの声掛け」には反応する利用者がいることがわかった。

そこから,ただ単に名前を呼びかけるより,肩に触れながらの声掛けの方が,声掛けとしては有効だよ!ということもできた。

 

おわりに

介護研究 条件を比較する」では,比較する条件は「足浴あり」の日と「足浴なし」の日だったけど,同じ日であっても違う刺激に対する反応を比較して,今回のような研究をすることもできる。

また,足浴の研究は行動反応を比較したけど,今回のような心拍,他にも皮膚温度や脳波,唾液なんかの生理指標を比較する方法もある。

今回は,何人かの参加者に協力してもらって研究したけど,少数事例しかなかったり,自分が働く施設内で対象にしたい人が少ない可能性だってある。そういう場合の研究については,「介護研究ーABABデザインを用いた研究ー」が参考になると思う。

研究方法にはそれぞれメリット・デメリットがあるので,どのような方法が適切か検討してみてください。
どのような研究方法があるのかは「自分たちの介護を研究したい!研究方法のまとめ」を読んでいただければ,いくつかの選択肢があるかと思います。


できれるだけ多くの方に読んでいただきたいと思っております。
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寝たきりの利用者への名前の呼びかけについて検討する」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: 寝たきりの方へのレクリエーション – ひとにやさしくじぶんにやさしく

  2. ピンバック: 寝たきりの高齢者へレク活動ーボディソニックの検討ー – ひとにやさしくじぶんにやさしく

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