デイサービスに協力していただき,「お仕事ポイント」の研究を行いました。(1)

投稿者: | 2021年3月1日

高齢者福祉の現場では,高齢者は食事を与えられ,排泄や入浴の介助などのいわゆる介護が提供される。
また,現場で働く介護職の努力により,日常生活を楽しく過ごせるように様々な工夫が行われている。

一方で,「デイサービスはつまらない。」という声も多く聞かれる。これはデイサービスに限らず,現代の高齢者福祉の支援を受けている多くの高齢者の共通することばではないだろうか。

高齢者福祉の現場で重要なのは「安全」である。これは,非常に重要なことだし,ないがしろにしてはいけない。安全に配慮することで,多くの施設は利用者からの信頼を集め,経営を存続させることができる。

しかし,「安全」に偏りすぎてはいないだろうか。この偏重が,高齢者福祉施設の現場で,多くの高齢者は「支援を受ける」存在にしてしまっているのではないかと考えられる。

実際には認知症の方も洗濯物を干すのを手伝ってくれようとしたり,
掃除をしてくれようとしたり,何かと動いてくれようとしたり,
職員に対して何かを「提供」してくれようとする。

それは,人間として,純粋に「誰かの助けになりたい」という,本能に近い欲求ではないだろうか。

高齢者福祉は,いや「福祉」は「幸せ(well-being)」を意味するものである。もちろん,それには「安全」も含まれるが,それだけでは本来の「福祉」を達成できるものとは,私には考えられない。

本来の福祉の理念に基づくならば,本人の「幸せ(well-being)」にも配慮し,本人が「こういうことがしたい」という希望をかなえる環境を整えることこそ,「福祉」に近づくものと考える。

そこで,デイサービスで「お仕事ポイント」という簡単なプログラムを導入して,その効果を検証してみた。

高齢者福祉施設が利用者にとって「つまらない」理由

「デイサービスはつまらない。」

高齢者福祉の現場に関わっていると,よく聞かれる言葉だろう。

実際に,私が高齢者福祉の現場を利用者として利用したいか,と問われれば,
「利用したくない」というのが本音である。

利用者になれば,それなりにきれいな環境で,
入浴もしてもらえるし,排泄の介助もしてもらえるし,食事も用意してもらえる。
生きる上では,十分なケアがどこででも提供されている。
まるで,高級なホテルで満足したサービスが受けられるような状況である。

しかし,そこでは利用者は,ただサービスを受けるだけの存在である。IL運動では,利用者の自己決定に重きが置かれ,それが自立に直結する。このことが本人のQOLに直結する。
私は,この考え方に一部賛同するため,自己決定をないがしろにすることはできない。

なぜ,私は高齢者福祉の現場に利用者として利用したくないのか考えたとき,ただサービスを受ける環境に身を置きたくはない。「明日はあれをやって,これをやって。」と先々の予定を考えたり,何かの目標に向けて日々を過ごしたり,ということが,生きていくうえで必要だと考える。

現代の福祉の現場で,それができるところがどれだけあるだろうか。食事のメニューはあらかじめ決められており,日々の活動,レクリエーションなども決められたメニューを行う形のところが多いだろう。与えられたものをただ受け取るだけの,まるでチャンネルの選択権もないテレビ番組をただみせられているような環境だ。

極端な話,それは「生かされている」のであり,「生きている」とか「生活している」とは表現しがたいように感じる。IL運動で強調された「自己決定」がやはり重要なのだろう。

では,どんな福祉が理想なのかというと,私は,自分がやりたいことができる環境にあること,つまり自己決定ができる環境を整えることではないかと考える。それが福祉の目指す「環境」ではないだろうか。

高齢者に役割を持ってもらう

では,なにができる環境が必要なのだろうか。

私は,「人の役に立っている」と感じてもらうことが,望ましいのではないかと考えた。

これまで,高齢者の生活の質(QOL)を高める要因として,社会参加は注目を集めており,「生きがい」,「社会参加」といったキーワードで多くの研究・実践が行われてきた。

例えば,認知症予防教室,体操教室,カラオケ,散歩などといった地域の高齢者が参加できるサークル活動,ボランティアやシルバー人材センターを通した地域貢献活動などが盛んに行われており,その効果として認知機能の改善やQOLの向上が確認されている。

これらの「社会参加」は,カラオケや体操教室のように高齢者が自分の楽しみのために参加する活動と,ボランティアのように高齢者が他者や地域のために参加する活動とに大別される。この2つの活動を比較したとき,他者や地域のために参加する活動は,特に重要と考えられる。例えば佐藤ら(2011)は,高齢者の家庭内役割の有無とQOLとの関連を検討しており,家庭内の役割は「生活活動力」と「精神的活力」と関連していることを実証した。

高齢者が自分にできる役割を果たし,「自分に役割がある」と感じることが重要であり,それが生きがいとなり,QOLを高める結果になると考えられる。 これは,例え高齢者が要介護状態になったとしても変わらないことであると考えられる。

私は介護職員という立場で高齢者福祉の現場に入り,積極的に自分から洗濯ものをたたむ,掃除をするという高齢者の姿を多くみてきた。「自分が早く帰って,○○の仕事をしなければいけない」と訴える高齢者も多く,積極的に何かしらの仕事をしようという意識が感じられる場面も多くある。

このように要介護状態の高齢者であっても,自身の生活の活動として,様々な「仕事」ができる者は多く,またしたいと訴える者も多い。この能力を積極的に活用することは,本人のQOLや日常生活動作(ADL)の維持向上に貢献できるのではないだろうか。

実際に,同じような視点で複数の施設で実践が行われており,有名な事例としては,ベネッセスタイルケアが運営するまどか川口芝が,ホームの中での「役割」を通じ,生きがいとハリのある「その方らしい生活」を目指す取り組みを行い,リビング・オブ・ザ・イヤー2016で大賞を受賞した。他にも認知症の方がホールスタッフとなる「注文をまちがえる料理店」などもニュース等で紹介されており,要介護高齢者の役割とQOLとの関連については,注目されているといえよう。

おこがましいかもしれないが,高齢者福祉も「自分が他者の役に立っている」と思える環境を整えること,それが本来目指すべきものではないかと考える。

また,これは日本人特有の考え方なのかもしれないいが,提供されるサービスに自分が介入することに躊躇しまう,というのは,誰しも感じるのではないかと思ってしまう。

例えば高級なホテルに宿泊しながら,従業員に対して,清掃や洗濯を手伝ったりすることは私には難しい。あるいは,飲食店で自分から積極的に清掃その他のサービスに,自ら手を出そうとする人がどれだけいるだろうか。

これが,「利用者」と「職員」の大きな壁であると考える。

しかし,前述したとおり,現実には,高齢者福祉の現場で「利用者」は,「他者の役に立ちたい」と考えている節は見受けられる。これを実現したいと考え,今回の企画を考えてみた。

デイサービスに協力していただき,「お仕事ポイント」の研究を行いました。(2)に続きます。

本記事の内容は,栗延孟(2020)「要介護高齢者が自身の役割を意識できるプログラムの開発と効果の検証-デイサービスにおけるお仕事ポイントプログラムの取り組み―」.日本文理大学紀要48(1),55-63.に加筆修正を加えたものです。

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