介護福祉学研究 事例研究

投稿者: | 2018年6月17日

これまで,介護の研究方法について,いろいろ紹介してきた。(「自分たちの介護を研究したい!研究方法のまとめ」)
でも,事例研究についてまだ紹介していなかったので,ここで紹介したいと思う。

目次

法人事例研究会

「リサさーん,ちょっと相談があるんだけど。」

リサさんが,仕事を終えて,引継ぎが終わったところに,マナブさんが話しかけてきました。

「どうしたんですか?」
「実はさ,施設長から,法人の事例研究会をやるように言われてさ。」
「事例研究会?」
「うん,それで,是非リサさんにも発表してもらいたいと思うんだけど。」
「でも,私,事例研究なんてやったことないんだけど。」
「リサさんなら大丈夫。『研究』について,ちゃんとわかってるからね。」

そういうと,マナブさんはパソコンを立ち上げて,リサさんに見せました。

「施設長からお願いされたのはね,うちの法人の事例研究会なんだ。」

リサさんたちの特養がある法人は,他にも老健,グループホーム,デイサービス,訪問介護の事業があります。

「その介護職の人たちを集めて,事例研究会をやれ,ってことなんだけど。」
「ふーん,私,訪問介護とかはやったことないから,その事例は聴いてみたいかも。」
「うん,いろんな職種の介護の技術を共有できるいい機会かな,とは思うんだけど。
みんな,ちゃんと研究発表してくれるか不安なんだ。うちの法人で,事例研究会なんて,初めてだから。」
「そうだね,私も何をやったらいいのかわからない。」
「うん,それで,事例研究について,みんなに簡単に説明できればいいかな,って思うんだけど。ちょっとリサさんも見てもらえる?」

事例研究(ケーススタディ)と事例検討(ケースカンファレンス)

「まずね,事例研究と事例検討を勘違いして欲しくないんだ。」
「事例研究と事例検討?何が違うの?」

「うん,事例研究(ケーススタディ)はね,基本的はすでにやったことについて,事例を共有するんだ。
そして,その介護実践の意味や効果について検討して,その技術を共有することが目的。

それに対して事例検討(ケースカンファレンス)は,現在やっていることやこれからやることについて,相談する。
そして,どんな介護実践をやればより良いか,相談することが目的になる。」
「カンファレンスやスタディと聴くと,その違いがわかりやすいかもね。」
「そうだね。だから,事例研究の場合,『何をやったか』そして,その結果として『どう変わったか』ということをちゃんと示してもらわないといけないんだ。」
「うん。そりゃそうでしょ。研究ってそういうもんだし。」

「でもね,たまにある事例研究の発表は,『あれをやりました,これもやりました。その他に,利用者さんの都合でこういうこともやりました。その結果,こうなりました。』という発表があるんだよ。」
「ああ,まあ実際に介護していたら,そうなっちゃうかなあ。」
「うん,それはそれで仕方ないんだけどさ。でも,考察で,介入のことにはあまり触れずに,『利用者さんに喜んでもらえる介護が大事』とか,『利用者さんとしっかりコミュニケーションを取ることが大事』みたいな結論になるものもあってね。ちゃんと介入の効果について検討してもらいたいんだ。」
「研究,っていうのが,みんなあんまりピンときてないんじゃないかな。事例検討なら,それでいいのかもしれないけど。」
「うん,そうなんだ。それでね,ちょっとワークシートを作ってみた。」

事例研究のステップ1 ケースの紹介

マナブさんは,エクセルで作ったワークシートを見ながら説明します。

「まずね,事例の紹介をしてもらわないといけない。そのために,『その人の簡単なサービス利用までの経緯』,『身体的側面』,『社会的・心理的側面』,『ADL』についてまとめてもらう。」
「具体的には,どういうこと?」
「例えば,その人の既往歴,サービスを利用するまでの生活歴,家族の状況や性格など。もちろん,性別・年齢や要介護度も含まれる。」
「要するに,その人のプロフィールね。」
「うん,そういうことになるね。ここを紹介してもらわないと,事例の発表にならないから。」
「うん,まあそうよね。」

事例研究のステップ2 介護上の問題と実践内容

「そして,その次に必要なのが,介護上の問題と介護の実践内容。」
「うんうん。」
「まず,その人を介護する上で,どんな問題があったのか。もちろん,そんなに大きな問題がない事例もあると思うけど,介護を実践するとき,その人の状況に合わせて,何かしらやってると思うんだよね。だから,介護実践で考慮したその人の状況について説明してもらう。」
「うーん,例えば,『入浴拒否があって』とかだったらわかりやすいと思うんだけど。」
「そうだね。でも,介護をする,ていうことは何らかの問題があるってことだから。」
「うん。でもさっきのプロフィールとわけるのは難しいかもなあ。。。」
「なんでもいいんだけどな。例えば,『食事量が落ちている』,『一人で入浴することが難しい』,『歩行に問題がある』とか。
プロフィールと違うのは,なぜそのような介入をしたのか,その理由が知りたいんだ。」
「なるほど。じゃあ,当たり前のようなことでもいいんだね。例えば,『ひとりで排せつすることが難しい』とか。」
「うん,そういうこと。それに対して,どのような介入をしたのか報告して欲しい。」

「じゃあ,次の『介入実践内容・方法』っていうのは?」
「ここでは,その事例に対して,どのような実践をしたのか報告してもらう。実践をした,ということは,その実践に何らかの目標があるはずだから,『〇〇を目的にして,△△をしました。』という形になるかな。」
「そうだね。さっきの説明を聴いたから,わかりやすいよ。どんな介護でも目的はあるからね。」
「うん。ここの部分はできるだけ具体的に書いてほしいんだ。いつ,どこで,だれが,何を,なぜ,どうやって。この5w1Hをしっかり教えて欲しい。」
「なんでそこまで具体的に書くの?」

「介護研究はね,『どんな介護をやって,どういう結果が出たのか』を共有することが目的なんだよ。これを共有することで,良い介護技術を広めていくことができる。だから,『何をどのようにやったのか』っていうのは,とても重要なんだ。ここがあいまいだと,共有する意味がなくなってしまうでしょ。」
「なるほど。要は,別の施設でも同じことができるように,そこの部分の情報はしっかりと示す,っていうことだね。」
「そういうことになるね。」

事例研究のステップ3 介護実践の結果

「そして,その実践をして,どんな結果になったのかを書いてもらう。」
「うんうん。」
「結果もいろいろあると思うんだよね。上手く行ったり行かなかったり。経過ごとに結果を示す方がいい場合もあるかもね。」
「そうだね。まあ,事例だから,それはしょーがない。」
「まあ,ここは,介護実践をして,どうなったのか,シンプルに書いてもらうところ。どっちかっていうと,次の考察のために,書いてもらうところなんだ。」

事例研究のステップ4 介護実践の考察

「この考察,ていうのは?」
「うん,介入の結果どうなったのか。介入を実践した効果について,発表者が考えて書くところだね。」
「実際の結果とは違うの?」
「実際の結果は,その時の状況とかいろんな要因が合わさっての結果でしょ?介入を実践した純粋な結果じゃないわけじゃない?」
「うん。」
「ここで,考察して欲しいのは,介入をした意義・効果,そういうものを発表者なりに考えて欲しいんだ。」
「なるほど,だから,この前に書いた『結果』とは違うんだね。」
「何度も言うけど,事例研究で共有したいのは,『何をやって』,『その結果,どういう効果があったのか』っていうこと。それは,具体的な結果として現れるかもしれないけど,現れない部分も考察していいと思う。」
「なるほど。」
「そして,さっき言った,『何をやって』,『その結果,どういう効果があったのか』という部分もまとめて欲しいね。」

事例研究のステップ5 タイトル決め

「ねえ,さっきから気になってたんだけどさ。」
「うん。」
「このワークシート,最後の部分に『この事例であなたが言いたいこと』ってあって,『⇒発表タイトル』ってなってるじゃない?」
「うん。」
「タイトルって,普通,一番最初に考えるもんじゃないの?」
「うん,普通はそう思うかもね。でも,僕は,そういう風には考えてないんだ。
どんな内容を話すか考えて,改めて,『この発表で自分が一番言いたい事ってなんだろう。』って考える。それが,そのまま発表のタイトルになるんだよ。」
「ふーん。」
「『まとめ』の部分でさ,この研究全体のことを簡単にまとめるじゃない?たぶん,それが一番言いたいことに近いと思うんだよね。」
「うん,私もそう思う。」
「だから,それを踏まえて,改めて,タイトルを考えればいいと思うんだ。」
「なるほどねえ。」

成功事例じゃなくても良い

「だいたい,事例研究って,どんなものかわかった?」
「うん。ただ,ちょっと気になることがあって。」
「なに?」
「これってさ,『こんな介入をして,こんな風にうまく行きました!』っていうのなら,作りやすいと思うんだけど,そういう事例が,すぐに思い浮かばないなあ,と思って。」
「ああ,それは全然いいよ。失敗事例も,事例研究としてはとてもいい。」
「失敗事例で,どうやって発表するの?」
「つまり,『こういう介入をしました。』,『その結果,こんな失敗がありました。』ってことでしょ。そして,『なぜ失敗したのか』考察してくれれば,他の参加者にとっても,良い情報だよね」
「ああ,そうかあ。」
「成功事例も同じなんだ。『なぜ成功したのか』考察することは,逆に言えば,『どうすれば失敗してしまう可能性があったのか』ということになる。」
「うんうん。結局,技術を共有することにはなるんだね。」
「そう。事例研究は,事例検討みたいに,『これからどうすればいいか?』議論するものじゃなくて,すでに介入が終わった事例を共有して,介護の技術を共有するのが目的だからね。」
「うん,ありがとう。」

まとめ

マナブさんにいろいろ説明してもらって,事例研究に挑戦するリサさん。
マナブさんが作ってくれたワークシートのおかげで,何をどうまとめればよいかわかったみたいです。
みなさんもぜひ,活用してみてください。

次回は,発表スライドの作成方法について紹介します。

研究方法については,「自分たちの介護を研究したい!研究方法のまとめ」でまとめていますので,参考になさってください。


できれば多くの方に読んでいただきたいと思っております。

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