寝たきりの高齢者へレク活動ーボディソニックの検討ー

投稿者: | 2018年5月4日

介護の現場では,寝たきりの高齢者については,言葉による反応や行動・表情による反応が見られにくいこともあり,多くの介護職員がレク活動などを行いたいと思いながら,それが実践できずにいる現状がある。

寝たきりの方へのレクリエーション」では,そのような状況の中で,どのようなレクリエーションが実践可能なのか,重症心身障害児・者に対する療育活動を参考にしながら,提案してみた。
というのは,「寝たきりの利用者への名前の呼びかけについて検討する」で書いているように,筆者は大学院の博士課程に在籍していた頃,寝たきりの方を対象に研究していた経験があり(「重度認知症高齢者に対する働きかけについての一考察:聴覚・触覚刺激を中心として」),そのときの研究も多くは重症心身障害児・者を対象とした研究を参考にしていたからだ。

実は,その研究の中で,寝たきりの方に対するレクリエーション活動として,ボディソニックの効果も検討してみた。この研究は,ABABデザインで行ったので(「介護研究ーABABデザインを用いた研究ー」),ABABデザインの研究の実例として紹介する。

ボディソニック

ボディソニックは,音楽を振動と共に聴くことができるシステムだ。ベッドマットにスピーカーが内蔵されており,流した音楽の低音成分が振動に変換されて,音楽と共に振動を感じることができる。
これを使って音楽を聴くと,ベースラインや低音ドラムの部分を音と共に振動で感じることができる。

ボディソニックについては,開発者の小松明氏が,詳しく説明している(ボディソニックとは

研究の実際

寝たきりの利用者への名前の呼びかけについて検討する」で紹介したように,筆者はそれまでの研究で,寝たきりの高齢者の方であっても名前の呼びかけには反応しているようだ,ということ。そして,単に呼びかけるよりも方に触れるなど,タッチングしながら呼びかけた方が,反応が見られることがわかっていた。
つまり,「○○さーん」と呼びかける音の刺激と,「トントン」と肩を叩く触刺激の組み合わせが,寝たきりの方もの受け入れやすい刺激だと考えられた。

それで,寝たきりの方に対するレクリエーションとして,音刺激と触刺激の組み合わせがいいんだろうなあ,と思って,このボディソニックを使ってみることにした。

でも,この活動は個別レクになるし,筆者が大勢の方を対象に,ボディソニックを使った音楽活動をやるのは現実的じゃない。
また,この活動を毎日行うのも無理はある。

そこで,週に2回,ある施設の寝たきりの利用者3名を対象に,ボディソニックを使った音楽活動の効果の検討をABABデザインで行った(「介護研究ーABABデザインを用いた研究ー」)。

まず,それぞれの活動は,「名前の呼びかけ」-「音楽活動(Aデザイン:音だけ,Bデザイン:音+振動)」-「名前の呼びかけ」とした。
そして,A(1か月)-B(2か月)-A(1か月)-B(1か月)で活動を行い,「寝たきりの方へのレクリエーション」でも紹介したようにその活動前後の心拍の変動や体温・皮膚温,活動前後の声掛けに対する心拍反応,また微細な表情の変化などもビデオで撮影し,評価を行った。

最初のBデザインは,長めに行う

それまでに,ABABデザインを使った研究を何度かやったことがあったが,経験上,このような方に介入をすると,介入をはじめた直後に見られた反応が,その活動を継続すると徐々に変わっていくことがある。また,最初の内は反応があまりみられないけど,徐々に反応が見られるようになる,といった経験もあった。
だから,最初のBデザインは他の部分よりも長い期間行い,この介入部分は「前半ー後半」でもわけられるようにデザインを組んだ。

研究計画からもわかるように,この研究には最低でも5か月間,週に2回,その方々が利用している施設に伺って実施した。
もちろん,事前に施設長やご家族からも承諾を得て,フロアの方々も研究がやりやすいように,いろいろと協力してもらった。
皆さんのご理解とご協力は,本当にありがたく,このご恩は一生忘れないだろう。

研究の結果

残念ながら,3名のうち1名の方は,正確なデータを収集することができなかったが,他の2名についてはなんとかデータを集めることができたので,分析を行った。

その結果,2名のうち1名はB条件で特に効果があり,もう1名はA条件もB条件も同じような反応を示した。
つまり,1名の方はボディソニックを使った活動はリラックスを促していると考えられたが,もう1名については不明だった。

結局ここから言えたのは,「振動と音楽を同時に使った方がよい人もいるよ。」ということだった。
とくに,この効果があった方と言うのは,B条件の前半はあまり反応が見られなかったが,活動を継続した後半から反応が顕著にみられるようになってきた。
そのため,もし現場で導入する場合には,ある程度の期間,ボディソニックを使った活動を継続してみて,その反応について検討することを勧めたい。
これはあくまで推論だけど,その人にとってその活動が「お馴染み」の活動になることで,よりリラックスできる活動になるのかもしれない。

おわりに

今回,紹介したように,ABABデザインは,どのようにAとBの期間を設定するのか,ということも重要になってくる。
特に,介入の効果を見るためには,その介入をある程度長く設定しないと,その効果を見ることができない。
本来,ABABデザインは,その介入による反応が安定してから,デザインを変えるものなのだけど,特に介護の現場で研究計画を立てるためには,「どれくらいの期間で」研究を行うのか,ということも重要になってくるので,その辺の調整も難しいと思う。

研究方法にはそれぞれメリット・デメリットがあるので,どのような方法が適切か検討してみてください。
どのような研究方法があるのかは「自分たちの介護を研究したい!研究方法のまとめ」を読んでいただければ,いくつかの選択肢があるかと思います。


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