寝たきりで,言語的反応や行動的な反応が見られない利用者の方へのアプローチは難しい。特に高齢者介護施設での寝たきりの方へのレクリエーションは,その人の反応が見られにくいし,しゃべることも動くこともできないから,どうしたらいいのかわからないことが多いと思う。
実際,現場の方と話していても,このことを相談されることも少なくない。
私は,「寝たきりの利用者への名前の呼びかけについて検討する」でも書いたけど,寝たきりの方への反応について研究していた(「重度認知症高齢者に対する働きかけについての一考察:聴覚・触覚刺激を中心として」)。ここでは,私なりの寝たきりの方へのアプローチ方法を書いてみる。
目次
重症心身障害者での療育活動を参考にする
高齢者で寝たきりの方へのアプローチについての研究は,ほとんどされていないのが現状だろう。
でも,身体的・知的に重度の障害を持った重症心身障害者については,「どんなに重い障害児でも発達する」という観念のもと,教育者や医者による意欲的な療育活動が実践されて,数多くの研究が蓄積されている。
重症心身障害児・者は,極度の筋緊張により,身体の動きが固くなってしまったり,外部の刺激を取り込みにくくなってしまうことがある。そのため,重症心身障害児の療育活動では,リラックスさせることが療育活動においてとても重要になる。
もちろん,重症心身障害児と寝たきりの高齢者とでは,その背景や状態は全く異なるけど,「寝たきり」であり,「反応が少ない」という面では共通する部分もある。また,リラックスさせる効果は,寝たきりの高齢者でも期待できるものもあるかもしれない。
重症心身障害児に対して行われている活動は,寝たきりの高齢者にも適用可能なものもあるかもしれない。
そこで,寝たきりの高齢者にも適用できそうな活動を少し紹介してみる。
スヌーズレン
「スヌーズレン」という言葉は,オランダ語で「クンクン臭いを嗅ぐ」というスヌッフレンと「うとうとする」というドゥースレンという言葉を組み合わせた造語ということだ。
島田療育センターがスヌーズレン様環境をyoutubeに挙げていたので,転載しておく。
スヌーズレンでは,暗い部屋の中でミラーボールなどをつけ,壁面を光が動くようにしてみたり,アロマを焚いたり,静かな音楽を流したりする。これでリラックス効果を促す。
その中で,触ると光りながら動くようなおもちゃを使ったり,揺らし刺激を与えたりしながら,対象者の反応を引き出す。療育なので,外的な刺激・それに対する対象者の反応・対象者の動きに応じた周囲の変化により,刺激の入力ー行動ー反応について学習を促そうという狙いがある。
これにより,視覚・聴覚・嗅覚・触覚に働きかけ,それらの感覚からの入力を促そうという狙いもある。
このようなスヌーズレン様環境は,手作りで作られている施設も少なくない。
部屋の照明を落とし,壁面を光が動き,アロマを焚いて,音楽を流す,というのは,それほどお金をかけなくてもできる。
揺らし刺激はハンモックを使うなど,工夫することもできるし,その中でできる活動はアイディア次第でいくつか考えられる。
このような環境は,高齢者施設にも導入可能だと思うし,リラックス効果も期待できると思う。
実際,障害児施設でもこのスヌーズレン様環境をつくり,そこに入った保護者達もリラックスして寝てしまうことがあると,聴いたことがある。
手浴・足浴
個別的な関わり方になるが,手浴や足浴もリラックス効果が期待できるかもしれない。
実際,私が行った研究では,肩を軽く叩いて声をかけることが,一番利用者の反応を引き出せた。
触刺激は,寝たきりであっても利用者に伝わりやすく,有効な働きかけになる可能性は高い。
障害者施設で実際に行われている手浴・足浴は,高齢者施設で行われているものと大きな違いはない。
オイルを使ってハンドマッサージをしたり,お湯に手や足を入れるなどの方法もある。
もちろん,蒸しタオルを作って,足に巻き,ビニール袋で覆うなどの方法もリラックスを促す効果はあるだろう。(参考URL)
これをスヌーズレン様環境で行えば,さらにリラックスを促せるのかもしれない。
音楽と揺らし
重症心身障害児の療育には,揺らし刺激を用いられることも多い。
寝たきりの高齢者も触刺激や揺らし刺激は有効である可能性がある。
たとえば,利用者の方に簡易のハンモックに寝てもらい,音楽に合わせてタッチングしたり,揺らし刺激を与えるなど方法も考えられる。
音楽を聴くこともたしかにリラックスにつながったり,立派な余暇活動にもなり得ると考えられるが,私の研究では音刺激だけよりも触覚に同時に働きかけた方が,音刺激の取り込みは良かった。
揺らし刺激や触刺激を与えることにより,より効果的に音楽のリラックス効果を高められる可能性がある。
どうやって評価するか
いくつか案として挙げてみたが,揺らし刺激や触刺激が不快な利用者さんがいるかもしれない。
このような方を対象にした活動で,一番難しい部分は,その活動をどのように評価するのか?という点だ。
言語的・行動的に反応がみられにくい方を対象にするのだから,本人の発言や行動をもとに評価することはできない。
重症心身障害児・者の領域では,心拍数を計測したり,唾液アミラーゼの生理指標を計測したりするなどした研究がいくつか見られる。
でも,実際の介護現場ではそのようなものを測るものはない。
一つの案として,スマホなどにある心拍数を測るアプリを使って,リラックス効果を確認するのはどうだろうか。
ストレススキャンを紹介する。
最近のスマホアプリは発展していて,カメラの部分に人差し指を置けば,血流を把握してそこから心拍数を推測することができる。
心拍の揺らぎから,副交感神経系の活動を推測して,ストレスチェックをするというものだ。
似たような機能をもつアプリはいくつかあると思うので,探してもらいたい。
これを活動前と活動後に行い,ストレス値が減少(よりリラックスできている)かどうかを確認する。
あるいはこの取り組みを続けることで,よりリラックスできるのかを確認する,などができる。
利用者さんの人差し指をスマホのカメラに置くだけなので,それほど負荷もかからないだろう。
おわりに
実際,重度の方への介護は,反応が見られにくくて,介護職員側もやりがいが感じられにくいという問題もある。(蘇ら,2007)
それでも,私たちの介護や働きかけは,その利用者の方に何かしらの影響を与えている。その中で,どのように働きかければ,その方がリラックスできるのか,どのように働きかければその方の生活が豊かになるのか,いろいろ考えて確認しながら,日頃のケアを行っていきたい。
実際に,筆者が寝たきりの方へのレクについて研究した内容は「寝たきりの高齢者へレク活動ーボディソニックの検討ー」に書いた。こちらはどちらかというと,研究方法の参考になると思う。
できれるだけ多くの方に読んでいただきたいと思っております。
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