「介護研究-アンケート調査の方法-①」では,リサさんが施設長に頼まれて,介護現場の職員のストレスについてアンケートを作ることになりました。
アキラさんと相談しながら作っていますが,二重否定,ダブル・バーレル,キャリーオーバーなど,重要なことに気が付きながら作成することができています。
ここでは,前回に続き,リサさんとアキラさんが相談しているところに,マナブさんも現れて,回答の形式や匿名性の確保など,重要なことについて説明します。
目次
回答の形式
「あ,これ見て。ネットで見つけたんだけどさ,『現在,仕事上でストレスはありますか?』っていう質問に対して,このアンケートだと私たちがやっているような『1.はい,2.いいえ』じゃなくて,『1.とてもある,2.どちらかと言えばある,3.どちらともいえない,4.どちらかと言えばない,5.全くない』になってる。こういう聞き方をした方がいいんじゃないかな?」
「なるほど,そういえばいままで意識したことはなかったけど,街中のアンケートってそういう聞き方をしているものも多いよね。」
「こういう聞き方をすれば,新人とベテランとか,そういう人たちの差がわかりやすくなるんじゃないかな。」
「素晴らしい!」
「うわ,マナブさん!びっくりした。」
いきなり,PTのマナブさんが会話に入ってきました。
「アキラさんの言うとおりだよ。統計的に分析するとき,新人・ベテランの差をみようとすると,『はい・いいえ』みたいな二者択一の聴き方だと差が出ないことがある。でも,こんな風に5段階で,大小関係がある聴き方をするのを5件法っていうんだけど,5件法や7件法にすると,その差がわかる,っていうことはある。」
「そうか,じゃあここも5件法にしてみよう。マナブさん,また分析をお願いしてもいいですか?」
「うん,いいよ。」
「マナブさん,ついでと言っちゃあれですが,私たちが作ったアンケートを見てもらっていいですか?」
「うん。」
マナブさんは,しばらくアンケートをみて,言いました。
「二人は,いままでアンケートを作ったことがあるの?」
「いいえ,初めてです。」
「すごいねえ。よくできていると思うよ。ただ,これだけだと,すべて『はい・いいえ』とか,5件法で聞くような質問ばかりになってるよね?調べたいのは,職場のストレス,っていうことでいいんだよね?」
「はい。」
「じゃあ,直接的に,『職場でストレスを感じることはどんなことですか?』って,自由記述で聴いてみたらどうかな。そうすれば,今後改善する部分も見えやすいと思う。」
「なるほど。自由記述っていうのは,『自由に書いてください』ってことですね。」
「そう。まあ,選択肢を選ぶんじゃなくて,自由記述が多いと,それだけ答える方は大変になるんだけど。一つくらい自由記述の質問があってもいいと思うよ。」
「ありがとうございます!」
匿名性の確保
「じゃあ,あとは名前を書く欄を作って。」
「待って,名前を聴くの?」
マナブさんが慌てて尋ねました。
「はい。」
「それはやめた方がいいんじゃないかな。これはこの施設でやるアンケートでしょ?『施設の人に見られる』っていうことがわかるアンケートで,しかも名前を書いてしまうと,本当の意見を書きにくいと思わない?」
「そうかあ。たしかにそうかも。でも,新人とベテランは比較したいから。じゃあ,経験年数だけでも聞いておこうか。」
「うん。聴き方も『3年未満』,『3年以上~5年未満』,『5年以上』みたいな選択式にした方がいいよ。人によっては,だれかわかってしまうかもしれないからね。」
「なるほど。」
「アンケートは誰が回答したかわからないように聴くのが基本なんだ。そうじゃないと,個人が特定されて,答えづらくなってしまうからね。本当の意見を聴きたいなら,そういう配慮も必要だよ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
説明と同意(インフォームド・コンセント)
「できた!じゃあ,これをみんなに配ればいいね。」
「ちょっと待って。このアンケートがどういうものなのか,ちゃんと説明を書かないと。表紙を作って,そこに説明を書いておこう。」
「どんな内容を書けばいいですか?」
「じゃあ,前,僕がやったことがあるアンケートのデータを」
マナブさんは,USBを取り出し,アンケートのデータを探し始めました。
「あった。こんな感じ。まず調査の目的ね。それから提出方法。
そして大事なのが,この調査は強制ではなく,あくまで任意で協力するということ。僕の場合は,「協力しない場合も特に不利益はない」っていうことも明記している。
それから,『データは,各個人を特定できない形で扱う』というのも大事。実際にアンケート結果を集計するときは,アンケートに番号を振って,ID番号なんかで管理することになると思う。もちろん,学会や論文でも個人を特定できる情報は絶対に漏らさない。
あとは,回答方法かな。」
「なるほど。たしかに,何のために調査するかわからなかったら,答えようとも思いませんもんね。」
「研究するときは,『インフォームド・コンセント』,つまり説明と同意が必要なんだ。アンケート調査の場合は,ここに『ご協力いただける方は,ご回答いただき,担当者のレターケースにご提出ください』って書いてあるから,提出してくれた時点で同意してくれた,とみなすこともできる。実験なんかの場合は,同意書も必要になるよ。」
「そうなんですね。」
「あとは,問い合わせ先もきちんと書くこと。これは,外部の施設にも配ったアンケートだから施設名なんかも書いてあるけど,施設内でやるなら,所属部署と名前だけ書いておけば大丈夫かな。」
「ありがとうございます!」
リサさんとアキラさんは,マナブさんの協力を得て,やっとアンケートを作成することができました。できあがったアンケートはこんな感じです。みなさんがアンケートを作成するときも参考にしてみてください。
後日談
リサさんたちは,問8,問9の質問を参考にして,男性と女性,仕事を辞めたいと思ったかどうかなどで,他の質問項目に差があるかどうか分析しました。
アンケートの結果がまとまり,リサさんは施設長に報告にいきました。
「施設長,アンケートの結果がまとまりました。」
「おう,ありがとう!助かるよ。」
「私たちの分析では,まず全員がストレスと感じるのは,やはり人間関係。特に上司との関係のようです。
その次に,男性は部下との関係,女性は同僚との関係に,ストレスを感じる人が多いようです。
仕事を辞めたいと思った人は,経験年数が長いほど多くなるのですが,特に給与面で不満を持っている人がそのような傾向が強いようだということがわかりました。」
「なるほど。利用者との関係や仕事内容は,ストレスとはあまり関係がなさそうだったかな。」
「はい,ストレスと感じることに,利用者さんとの関係を挙げている人はほとんどいませんでした。入浴介助が身体的にきついと言っている職員はいましたが,仕事内容そのものがストレスと感じている職員はあまり多くありませんでした。やはり職員同士の関係や待遇がストレスの原因として多いようです。」
「ありがとう。報告書をよく読んで,考えてみるよ。職員同士の交流会とか,考えた方がいいかもしれないね。ありがとう。」
まとめ
この回では,アンケートの作り方をまとめてみました。アンケートサンプルを参考にしながら,皆さんもアンケートを作成してみてください。
大事なのは,「回答する人が,回答しやすいアンケートを作ること」です。
そうじゃないと,回答者の本当の意見を聴くことができなくなってしまいます。
そのために,ダブル・バーレルや二重否定のところで注意したように,質問文の表現方法には注意しましょう。
また,回答者の負担になり過ぎないように,質問項目の数や自由記述の数なども注意しましょう(あまり質問が多過ぎると答える気をなくしますもんね。)
研究にはいろいろな方法があります。他の研究方法も知りたいという方は,「自分たちの介護を研究したい!研究方法のまとめ」をご覧ください。
できれば多くの方に読んでいただきたいと思っております。
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