コミュニケーションの基礎

投稿者: | 2018年2月8日

現場に行った学生から,「利用者とのコミュニケーションが難しかった。」という話をよく聴く。
ここでは,コミュニケーションの基礎的な技術について,まとめてみる。

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目次

会話の目的

「今日はね,息子が来るんだよ。」

施設の利用者さんがこのように話してくれた時,その施設職員であるあなたならどのように返事をするだろうか。

高齢者に限らず,人が誰かに話をするとき,情報を伝える目的と感情を伝える目的とがある。

「そうですか。何時頃いらっしゃるんですか?」
この対応は,「息子が来る」という情報に対して,「何時ごろ?」という情報をさらに尋ねており,情報にのみ反応している。

その利用者さんの話したとき,とてもはすんだ声で笑顔で話していれば,
「そうなんですね,楽しみですね。」と感情に反応することができる。

もし利用者さんが話すことで,その内容があなたに伝えなければいけない内容でないなら,
多くの場合それは,感情を伝えることを目的としている。
そのため,情報のみではなく,感情に対しても反応することが必要になる。

コミュニケーションの基本

傾聴

もし,利用者さんが暗い感じで,
「今日はね,息子が来るんだよ。」
と話してくれた時には,どのような態度をとるべきだろうか。

何か,息子が来ることで,不安なこと,嫌なことがあるのだろうか。

カウンセリングなどでは,傾聴という技術がある。
これは,話をただ聞くのではなく,注意を払って,より深く丁寧に聴くことだ。

暗い顔で同じ内容を話しても,情報としては「息子が来る」という情報しか伝わっていない。

でも,表情や声の様子からは,何かネガティブな感情が読み取れる。その感情に,しっかり反応することで,相手のことがよりよく理解できる。

傾聴で大切なことは,

  • 言葉以外の行動(姿勢,しぐさ,表情,声のトーン)に注意を向け,理解する。
  • 話を遮らずに,最後まで耳を傾ける。
  • 情報だけではなく,感情的な側面についてもよく受け止める。

何度でも言うが,相手が話す情報だけではなく,感情もしっかり受け止め,理解することが重要だ。

受容的態度

禁煙中の利用者さんが,「たばこを吸いたい」とあなたに話したとする。

おそらくその方は,「たばこを吸ってはダメ」とわかっており,あなたに「たばこを吸わせてくれ」と言っているわけではない。
ただあなたに,「たばこを吸いたい」という気持ちを伝えたいだけだ。

それに対して,「ダメです。」と否定するような態度を評価的態度という。
評価的な態度は,相手が話した情報の側面を評価することだ。
ダメなことはダメだと伝える方が,相手の体調を考えれば良いが,
それだけだと,相手の気持ちを受け止めていることを示すことができない。
この例は,ネガティブな評価だが,もちろん相手のことを褒めるなどポジティブな評価的態度もある。

「たばこを吸いたい気持ちなんですね。」と,
相手の気持ちを受け止めることを示すような態度を受容的態度という。
相手が話したことを否定したり,それに対して意見したりするのではなく,
まず,相手が話した感情を受容して,それから話を展開することで,信頼関係につながっていく。

注意しておきたいのは,「受容≠同調」ということだ。
相手には相手の考え方があり,あなたにはあなたの考え方がある。
それを無理に合わせる必要はない。
ただ,相手がそのように考えている事実を認め,よく理解することが重要になってくる。

反射(ミラーリング)

「たばこを吸いたい」と話す方に,そのまま「たばこを吸いたい気持ちなんですね。」と返事をすれば,
気持ちを受容したことを相手に伝えることができることを書いた。

このように,相手が話した情報と感情をそのまま相手に返すことを反射(ミラーリング)という。

ここで,ちょっと反射の方法を具体例を示しながらみていきたい。

(初級)相手の言ったことをそのまま繰り返す。

A:きょう上司からがんばってるってほめられたんだ
B:ほめられたの
A:そう、ほめられたんだよ

(中級)相手の言ったことを別の言葉に言い換えて繰り返す

A:いい年なんだからそろそろ結婚しなさいって親に言われてやんなっちゃうよ
B:そろそろ落ち着けって言われるんだ
A:そうなんだよ。まあ、気になるのはわかるけどね・・・

(上級)全体を要約して繰り返す

A:最近、職場で浮いている感じがするんだけど、なんでそうなっちゃたのかわかんないんだよ。まいったなぁ。
B:職場で浮いててつらいのかぁ。
A:そうなんだよ。昨日も会議の時間が変わったことを誰も教えてくれなかったんだ。

反射を上手く行えば,相手に自分が傾聴していること,受容的な態度で接していることを示すことができる。
また,自分が理解したことが相手の話していることと食い違いがないか確認することもできる。

話している方も,受容的な態度で接していることがわかり安堵感があるし,
自分が話している情報や感情が,相手から聴くことによって,客観的に自分をみることができる。

誰かに話すことで,自分の考えがまとまっていくことを経験された方もたくさんいるだろう。
その一つの理由に,相手の反応から自分の考えや感情を客観的にみることができた,ということが挙げられる。

自己開示

コミュニケーションが苦手な人もたくさんいて,その人の話を聴きたいと思っても,なかなか話せないこともあるかもしれない。
そこで,聴き手が自分のことを話す自己開示という方法がある。

自己開示とは,自分のプライベートな情報を正しく,誠実に,意図的に伝えることだ。

自己開示によって,親近感が高まるし,信頼関係も強くなる。

そして,相手の自己開示を促す効果も期待できる。
自己開示の受け手が,同じ程度の深さや量の自己開示を返す現象を自己開示の返報性という。

ここでまた,自己開示について具体的な例をみてみよう。

A:「私,人と話すのが苦手というか。時々何を話したらいいのかわからなくなることがあるんです。」
B:「人と話すのが苦手なんですね(反射)私も,初対面の人と話すときは,緊張しやすくて,しんどい思いをすることがあるんですよ(自己開示)。」
A:「わかります!私も初対面の人は特に苦手で・・・」

相手との信頼関係を強くして,相手が話しやすくなる,という点で,自己開示は有効だが,
過度な自己開示は,相手がただ聴くだけになってしまうので,注意する必要がある。
また,自分がやった過去の暴力などの話は,かえって親近感や信頼感を低くすることがあるので,避けた方がよいだろう。

まとめ

たとえば,誰かに相談された時,すぐにその解決策を提案してあげたくなる。
でもこれは,相手の話の情報にだけ反応していることが少なくない。

相手が話しているときの感情にも注目し,まず受容することで,
相手に落ち着いてもらうことができる。

この手順を飛ばしてしまうと,相手が落ち着いて話すことができず,
話の情報も不十分になってしまうかもしれない。

受容的な態度を示して,しっかり相手の話を聴き,
相手に落ち着いてもらったうえで,アドバイス等を行えば,
相手は,自分の感情を理解してくれたことを感じることができ,
あなたとの信頼関係はより深いものになるだろう。

特に,認知症の方とのコミュニケーションは難しい。その点については,「認知症の方とのコミュニケーション」でくわしく書いていく。


できれば多くの方に読んでいただきたいと思っております。

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コミュニケーションの基礎」への1件のフィードバック

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