介護研究-アンケート調査の方法-①

投稿者: | 2018年4月16日

ああ,ブログをだいぶ放置してしまった。。。

前回,「介護研究 条件を比較する」という内容で,利用者の行動データを比較する方法を書いていたので,
今度は,職員を対象にアンケートをとって,その属性間を比較する方法について書いてみようと思う。

目次

ストレスの把握

前回と同じように,リサさんと施設長に登場してもらおう。
なお,前回同様,今回の話も実際の話ではなく,あくまで架空の話です。


リサさんが仕事を終えて記録を書いていると,アキラさんがやってきた。

「ねえ,リサさん,Aさんのこと聴いた?」

「え?どうしたの?」

Aさんは最近入ってきた男性の介護職員のことだ。

「Aさん,ここ数日無断欠勤していて,どうも辞めるらしいよ。」

「え?もう?まだ2週間も経っていないのに。」

「Aさん,ちょっと口下手というか,コミュニケーションが苦手みたいなところがあるじゃない。だからかなあ。」

「うーん,どうだろう。優しそうな人だと私は思ったけど。」

そこへ,施設長がやってきました。

リサさんが気がつくと,アキラさんはすぐに控室に隠れてしまいました。

「リサさん,ちょっとお願いがあるんだけど。」

「はい。」

「最近さ,急に辞める職員が何人かいて,ちょっと困っているんだ。ただでさえ人手不足なのに。。。リサさん達も大変でしょ。」

「ええ,まあ。」

「それでさ,足浴の時みたいに,職員の仕事の不満やストレスについて,調べてもらいたいんだ。」

「はあ。」

「また,頼むよ。私だって,できるだけ職場環境はよくしたいと思ってるんだ。ね。」

「わかりました。じゃあ,ちょっとやってみます。」

「うん,よろしく。」

施設長がいなくなってから,またアキラさんが現れました。

「また,安請け合いしちゃって。」

「うん,そうだね。でも私も気になってたから。特に,入ったばっかりの人で辞めちゃう人,多いでしょ。私もなんとかしたいと思ってたし。」

「そうかあ。で,どうするの?」

「前回は,利用者さんのナースコールを数えたけど,今回は。。。どうすればいいかなあ。」

「アンケートかなあ。」

「そうね,アンケートを作ってみよう。協力してよね。」

「うーん,仕方ないなあ。」

ダブル・バーレルの禁止

リサさんとアキラさんは,その日は時間があったので,その場でパソコンに向かい,アンケートを作り始めました。

「最初の質問はどうしようか。」

「あ,こんなのがネットにあるよ!職場のストレスアンケート。」

「『現在,仕事上でストレスを感じることはありますか?』か。そうね,じゃあこれを最初に聴こうか。」

「うん,そうだね。」

「で,次は,『現在の仕事で,精神的・身体的にきついと思うことはありますか。』」

「ちょっと,待って。」

アキラさんは,Wordに書いたリサさんの質問を見て,制しました。

「この質問,私は身体的にきついっていうのは特に思いつかないんだけど,精神的にきついって思うことはあるんだよ。その場合,どうしたらいいのかな。」

「そうか。たしかにそうだね。」

「私みたいな人が他にもいたら,仮に「はい」と答えたとして,それが「精神的にきつい」なのか,「身体的にきつい」なのかわからないんじゃないかな。」

「たしかにそうだね。じゃあ,『質問1.現在の仕事で,精神的にきついと思うことはありますか。』,『質問2.現在の仕事で,身体的にきついと思うことはありますか。』でどうだろう。」

「うん,だったら答えやすい。」

リサさんにとって「同じ内容」と思っているものでも,アキラさんにとって「2つのことを聞かれている」と感じることもあります。このように,一つの質問で2つの内容を聴くことを「ダブル・バーレル」と言います。ダブル・バーレルの質問だと,アキラさんが指摘するように,どちらに答えればいいか聴かれている方はわかりませんし,仮に「1.はい」と答えられていたとして,その答えをどう解釈していいのかもわかりません。ダブル・バーレルの質問はアンケートでは御法度です。アンケートを作るときに,質問がダブル・バーレルになっていないか,よく確認してみてください。

二重否定の禁止

「この質問も聞いてみたいな。『夜勤がきつくないと感じないですか?』」

「感じる!夜勤中の業務,多過ぎ!失禁とかが少ない日ならいいけど,多い日はもう。」

「ね。じゃあ,これも質問に入れよう!」

「じゃあ・・・『夜勤がきつくないと感じないですか?』『1.はい,2.いいえ』」

「まあ,これは1の人が多いと思うけど。」

「え?2じゃない?」

「なんで?私は夜勤がきついと思うよ。」

「うん,そうだけど。『夜勤がきつくない』と『感じない』だから・・・。あれ?」

「うーん,答えようと思ったときに,どっちに答えていいかわからないなあ。」

「普通に,『夜勤はきついと感じますか?』にした方がいいね。」

「そだね。」

リサさんとアキラさんは気がつきましたが,『夜勤がきつくないと感じないですか?』のように,否定文が2つ入っているような文章は,どのように答えていいのか,答える方は戸惑ってしまいます。このような文章は二重否定といい,わかりにくい表現になっているので,答える方はどちらに答えればいいのかわからなくなってしまいます。質問を作るときはできるだけシンプルに,回答者が答えやすいように心がけましょう。

キャリー・オーバー効果に注意する

「実際,介護士不足の問題は,みんなどんな風に考えているんだろうね。」

「じゃあ,それも質問に含めようか。ええと,『介護士不足の問題について,あなたの意見を教えてください。』」

・・・

質問紙を眺めていたアキラさんは,「うーん。」とうなってしまいました。

「これさ,『介護士不足の問題について,あなたの意見を教えてください。』のあとに,『介護の仕事を辞めたいと思ったことがありますか?』の質問があるじゃん?これ,私は辞めたいと思ったことあるけど,この質問のあとだと,『辞めたいと思ったことがある』って答えにくいなあ。」

「うーん,そうだね。」

「ごめん,私が介護士不足の問題を聞いてみたいとか言ったんだけどさ,考えてみたらこれは,職場のストレスと関係ないよね。この質問,ない方がいいと思う。」

「うーん,たしかにそうだね。じゃあ,この質問はなしにしよう。」

ある質問に答えることが,後の質問の答えに影響を与えることをキャリー・オーバー効果と言います。アキラさんの言うように,前の質問によって,あとの回答が誘導されたり,影響を与えてしまう場合,回答者の本当の意見を聴くことが難しくなったり,ゆがめられた結果が得られてしまいます。アンケートを作るときは,このような点にも注意を払う必要があります。また,二人が判断したように,余計な質問は原則聴かないようにしましょう。

まとめ

この回では,アンケートの作り方について書きました。質問を作る場合,二重否定やダブル・バーレルやキャリーオーバー効果などに注意してみましょう。

介護研究-アンケート調査の方法-②」では,回答の形式や匿名性の確保について解説します。

アンケートサンプルを参考にしながら,皆さんもアンケートを作成してみてください。

大事なのは,「回答する人が,回答しやすいアンケートを作ること」です。

そうじゃないと,回答者の本当の意見を聴くことができなくなってしまいます。

そのために,ダブル・バーレルや二重否定のところで注意したように,質問文の表現方法には注意しましょう。

また,回答者の負担になり過ぎないように,質問項目の数や自由記述の数なども注意しましょう(あまり質問が多過ぎると答える気をなくしますもんね。)

研究にはいろいろな方法があります。他の研究方法も知りたいという方は,「自分たちの介護を研究したい!研究方法のまとめ」をご覧ください。


できれば多くの方に読んでいただきたいと思っております。

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