前回,施設長から学会発表をお願いされたリサさん。
マナブさんに口頭発表とポスター発表の違いについて説明してもらい,リサさんはポスター発表をすることになりました。(「介護研究 ポスター発表に挑戦する」)
さて,今回は前回に続き,ポスターの作成を始めます。
目次
ポスターの作成
マナブさんが自分のUSBをパソコンにつないで,リサさんたちにパワーポイントのファイルを見せました。
「じゃあ,ポスターを作ろうか。これは(ポスターテンプレ)僕が前に作ったポスターのテンプレートなんだけど。」
「おお,すごい!」
「タイトルは,一番最後に決めればいいと思うんだ。まず発表者は・・・」
「リサ,アキラ,マナブ,でいいかな。」
「うん。あと,所属なんだけど,オレ,いま大学院にも通っているから,大学院の名前も入れて欲しいんだ。」
「え,そうなの?すごい!」
「まあ,いろいろあってね,研究したいと思うことがいくつかあったから。」
マナブさんは,照れながら答えます。
「その場合,どう書けばいいの?」
「それぞれの名前に,『1)』のように,上付き文字で文字を挿入する。それで,その下に,その『1)』の意味がわかるように,『1)Z苑』という風に書けばいいよ。」
「なるほど。マナブさんのところは?」
「僕は所属が,Z苑とY大学大学院だから,僕の名前の上に『1)2)』と書いておいて,所属は『2)Y大学大学院』と書けばOK。」
「なるほどね。簡単。」
「あと,Z苑のロゴも入れておこうか。こういうのを入れると,施設の宣伝にもなるし,ポスターも少し華やかになる。」
「まあ,うちのロゴは微妙だけど(笑)。たしかに,『少し』華やかになるね。」
目的を書く
「じゃあ,まずは目的から。オレのテンプレートだと,『目的』としか書いてないけど,ここに研究をしようと思った理由と,研究の目的をまとめる。要は,なんでこの研究をしようと思ったのか,簡単にまとめるんだ。」
「うーん,今回足浴を取り入れたのは,利用者さんが少しでも楽しめる活動を,ってことでやったんだけど。」
「うん,そうだね。」
「なぜ,足浴をやったか,っていうのは,正直きちんと説明できないんだよなあ。」
「結果として,足浴をやることで,利用者さんが落ち着いたんだよね?」
「うん。」
「じゃあさ,こういうのはどうだろう。
『・高齢者の入所施設では,昼夜逆転をしてしまう利用者も少なくない。
・昼夜逆転してしまう利用者が多いと,介護職にとっての負担も大きくなってしまう。
・足浴は,リラクゼーション効果を高めることが期待でき,日中活動として足浴を取り入れることで,日中の利用者の覚醒を維持し,夜間の睡眠を促すことも期待できる。』
これが背景の部分だね。そして,
『日中活動として足浴を取り入れ,利用者の夜間の睡眠の質を高めることを目的とした。』」
「ものは言いようだね!」
アキラさんが言いました。
「人聞きの悪い言い方はしないでよ。だってこれ,事実じゃん。」
「まあそうだね。」
「コツはね,です・ます調で書かない。それから,きちんとした文章じゃなくてもよくて,箇条書きでもいいんだ。要は,見に来てくれる人にポスターを読んでわかってもらえればいい。」
「なるほど。ちゃんとした文章じゃなくてもいいんだ。」
「そういうことだね。」
研究方法を書く
「じゃあ,研究方法について書こうか。」
「あのさ,このポスターテンプレだと,『参加者』ってなってるじゃん?利用者じゃないの?」
「うーん,業界によって違うんだけど。今回は,研究の対象だから,『対象者』『被験者』『参加者』のどれかになると思うんだ。
ただ,研究に参加してくれた人について書くから,僕は『参加者』と書くようにしている。『被験者』と書いてしまうと,研究者と同等の立場じゃない,という考え方もあるからね。」
「ふーん,そうかあ。」
「あと,ここの欄には,介入内容,時期,分析方法などについても書く。要は,どうやって研究をしたのか,見に来る人にわかってもらえるようにするんだ。さっきと同じように,きちんとした文章じゃなくても構わないよ。」
「うん,わかった。」
リサさんは,介入の内容について書き進めます。
「あとは,倫理的配慮だね。」
「倫理的配慮って?」
「利用者や家族に対して,どんな風に説明をして同意を得たか。研究をする上では,この説明と同意が重要だ,っていうのは,前にも話したよね。発表する時も,『こんな風に説明をして同意を得ましたよ。』っていうことをちゃんと書かないといけないんだ。」
「なるほどね。」
リサさんは,倫理的配慮について,まず施設長の承諾を得たこと,ご本人に書類と口頭で説明して承諾を得たこと,ご家族にも書面で説明と同意を行い,研究データの記録については同意書の返送があった人のみにしたことなど,丁寧に書きました。
結果や介入内容を示す
「じゃあ,今度は介入した結果を書こう。」
「あのさ」
アキラさんが言いました。
「ここ,『〇〇の様子』ってところ。ここ,マナブさんは,介入の様子の写真を入れるつもりで書いてるんだよね。」
「うん,写真があった方がわかりやすいからね。説明もしやすいし。」
「でも,今回は写真は撮ってるけど,本人や家族に『発表で使ってもいいか』同意をもらってないんだ。」
「うーん,そうかあ。」
「でもさ,結果のグラフを入れるところがないから,ここにはグラフを入れたら?」
リサさんが言いました。
「せっかく,今回記録を取って,グラフも報告会ように作ったんだから,使った方がいいよ。」
「そうだね。これはあくまでテンプレートだから,作りやすいようにいろいろ入れ替えたりしても全然かまわないから。」
リサさんたちは,テンプレートの『〇〇の様子』のところに,足浴の結果のグラフ,『参加者一覧』には,エクセルで参加者情報の一覧表を作り,貼り付けました。
参加者の一覧表は,「Aさん,87歳,女性,アルツハイマー型認知症,昼夜逆転が激しく,夜間施設内徘徊が頻回」といった具合で,参加者の情報を一覧表にしていきました。
結果と考察を書く
「マナブさん,この『結果と考察』っていうのは・・・」
「うん,僕はそこに,統計的な分析をした結果を書いて,そこから言えることを書いていたんだ。」
「なるほど。じゃあ,統計はマナブさんが専門だから,ここ書いてもらえる?」
アキラさんがお願いしました。
「うん,いいよ。そのかわり,その統計の結果から考察できることは,アキラさんお願いね。」
「えー,私統計わかんないし。」
「一応,説明したじゃん。」
そう言いながら,マナブさんはパソコンの前の席をリサさんと入れ替わりました。
「リサさん,どの結果を書こうか。」
「とりあえず,足浴をした日としていない日の,ナースコールの回数に差があった,っていう結果だよね。」
「そうだね。」
マナブさんは,それについての統計的な検定をした結果を書きました。
「で,この矢印の先は,この結果から言えること。」
「だから,『足浴をすることで,利用者はリラクゼーション効果が見られ,夜間によく眠れる効果があったと考えられる』ってことかな。」
「うん。」
「マナブさん,もう一つ結果と考察を書く欄があるけど。」
「うん,複数結果が得られることもあるからね。今回は,これだけにしておく?それとも他の結果についても書いた方がいいかなあ。」
「今回は,これだけでいいかなあ。」
「OK。じゃあ,総合考察を書いておこうか。」
総合考察を書く
「ここには,いままで書いたことを全てを踏まえて,考えられることを『まとめ』的に書きたいと思うんだ。」
「それは,さっき『結果と考察』で書いたことじゃないの?」
「もちろん,それも含まれるんだけどね。『介護施設で,このような取り組みをどのように進めたらよいのか』とか,『どんな風に働きかけたから良かったんじゃないか』,逆に『ここはもうちょっと研究しないといけない』とか。」
「なるほど,まとめかあ。」
リサさんとアキラさんは相談しながら,介入上の注意点などを箇条書きにして,良かった点や悪かった点,今後の課題を書いてみました。
「マナブさん,一応できたよー。」
「うん。あれ,この『足浴中に利用者と1対1で会話ができた・・・』っていうのはさ,『介入内容』のところには書いてないよね。原則,ここに書いていることは,いままで書いたことのまとめだから。」
「ああ,そうか。じゃあ,『介入内容』のところを書き直さないと。」
「そうだね。そうやって,整合性を取っていくことも大事だね。」
タイトルを考える
「さて,じゃあタイトルを考えよう。」
「うーん,『足浴の効果について』じゃダメかな。」
「タイトルはね,その発表で言いたいことをまとめたものがいいよ。今回言いたいことは,『足浴をすることで,利用者がよく眠れるようになった』ってことでしょ?」
「うん,じゃあ,『高齢者に対する足浴が夜間の睡眠に及ぼす影響』」
「あ,それっぽい!」
リサさんの意見にアキラさんがのっかりました。
「うん,いいと思うよ。でも,『高齢者』って言っちゃうと,要介護じゃない高齢者も含まれるから。」
「そうか,じゃあ『要介護高齢者が』・・・,いや,それじゃあ在宅の可能性もあるから,『特養入居者に対する足浴が夜間の睡眠に及ぼす影響』でどうかな?」
マナブさんはしばらく考えて言いました。
「うん,いいんじゃないかな。」
発表当日
さて,出来上がったポスターを業者に依頼して,立派なポスターが出来上がりました。
「すごい,本当に布だ!なんかかっこいい!」
リサさんとアキラさんが感動していると,マナブさんが言いました。
「うん,僕もポスターが出来上がった時は,いつも感動するよ。自分で作ったものなのに,すごく立派に感じるよね。」
リサさんとアキラさんは,ポスターと配布資料用に,ポスターをA4に縮小印刷した紙を50部持って,勇んで発表会場に向かいました。
「ああ,緊張したあ。」
「でも,みんな反応が良かったと思わない?」
「うん,介護職の人が少なかったけど,看護の人とかリハの人とか,興味を持ってくれたみたいだね。」
反応は上々。他の人の発表もいろいろ聴くことができました。
「あのポスター見て。一番最初に『目的』と『結論』を書いて,方法とか詳しい内容は下の方に書いてある。」
「うん,上の方にどんな内容かわかるように書いてあるから,内容が目に留まりやすいね。詳しいことを知りたかったら,側に行って下の方を読みにいけばいいんだ。」
「こうやって見てみると,下の方は他の人が邪魔で見えにくいんだなあ。」
「あれは,絵や写真がいっぱいあって,あれも目に留まるね。」
「みんな色々工夫してるんだなあ。」
「私たちは,マナブさんのテンプレートそのままで作っちゃったけど,こうやってみるともっとわかりやすいポスターができるかも」
「まあ,好みもあると思うけどね。」
後日談
「リサさん,この間Y老健の施設長と話してさ,リサさんの研究の話があがってたよ!」
リサさんは施設長に声をかけられました。
「『Z苑は,介護職の方も積極的に研究されているんですね。』って褒められたよ。」
「ああ,Y老健の方とお話ししましたね。名刺も頂戴しました。」
「これからも頑張って,いろいろ発表してもらえると助かるな。」
「はい,私も今回発表して,いろいろな方とお話しできたので楽しかったです。」
「うん,よろしく頼むね。」
リサさんがその場を立ち去ろうとすると,
「あ,それからさ。あのポスターってまだあるの?」
「はい。大切に持っています。」
「じゃあさ,そのポスター,しばらく施設の玄関に掲示したいんだけど。」
「え!?」
「『うちの施設では,こういう取組をちゃんとやってるんですよ』っていう宣伝になるじゃん。」
「はあ。」
「ね,時間があるときに持ってきてよ。」
「わかりました。」
後日,リサさんたちのポスターは,玄関に掲示されました。
「なんか,ちょっと恥ずかしいね。」
アキラさんは,リサさんと掲示されたポスターを見て言いました。
まとめ
今回は,ポスターの作り方についてまとめてみました。
ポスターのサンプルも示したので,使ってもらえればと思います。
研究方法については,「自分たちの介護を研究したい!研究方法のまとめ」でまとめていますので,参考になさってください。
できれば多くの方に読んでいただきたいと思っております。
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