介護保険は2000年に施行されて,その内容はめまぐるしく変化している。
その背景には,加速していく高齢化に対する危機感のもと,それに対応するために様々な戦略が策定されて,対応していった背景がある。
これまで,「2018年度の介護保険の改正のポイント」,「介護保険の概要」についてみてきた。
ここでは,20世紀末からの高齢者福祉の展開と介護保険制度の変遷をみていく。
目次
高齢者保健福祉推進10か年戦略(ゴールドプラン)策定 1989年
高齢者保健福祉推進10か年戦略,通称ゴールドプランは1990年~1999年度の10年間にわたって,長寿・福祉社会を実現するための施策の基本的考え方と目標を掲げ,高齢者介護の全国的な基盤を整備し,急激に進む高齢化社会に対応する目的で策定された。
主な内容は,
- 在宅福祉(訪問介護,ショートステイ,デイサービスなど),施設福祉(特養,老健など)についての10年間の整備目標値を掲げた。
- 老人福祉事業の運営主体が市町村に一本化された。
- 老人保健福祉計画の策定により,ゴールドプランの完全実施を目指した。
老人保健福祉計画は,各都道府県・市町村で地域における総合的なケアシステムの確立などをめざして作成される計画である。
新・高齢者保健福祉推進10か年戦略(新ゴールドプラン)策定 1994年
当初予想されていたよりも高齢化が急速に進んだため,ゴールドプランの後半5年分が見直された。
また,1997年の「介護保険法」成立に向け,在宅介護の強化を目指し,ホームヘルパーの確保,訪問看護ステーションの確保など,介護基盤の一層の充実が目指された。
ここで,介護の基本理念として,以下が提唱されている。
- 利用者本位・自立支援
- 普遍主義
- 総合的サービスの提供
- 地域主義
この新ゴールドプランを受けて,1997年に介護保険法が成立している。
今後5か年の高齢者保健福祉施策の方向(ゴールドプラン21)策定 1999年
2000年に施行される介護保険制度に向けて発表された計画。
高齢者が「健康で生きがいをもって社会参加できる社会」をうたっている。
ゴールドプラン21では,介護予防が重視され,介護基盤を中心に,高齢者福祉施策の充実を図ろうとしている。
基本的な方向として
- 活力ある高齢者像の構築
- 高齢者の尊厳の確保と自立支援
- 支えあう地域社会の形成
- 利用者から信頼される介護サービスの確立
が示された。
また,具体的な施策としては,
- 介護サービス基盤の整備
- 認知症高齢者支援対策の推進
- 元気高齢者づくり対策の推進
- 地域生活支援体制の整備
- 利用者保護と信頼できる介護サービスの育成
- 高齢者の保健福祉を支える社会的基礎の確立
が示されている。
このゴールドプラン21が策定されたのち,介護保険法が2000年に施行された。
2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~ 2003年
2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~,通称「2015年の高齢者介護」は,介護保険施行から3年が経過した時点での実施状況をふまえた検証を行った。
また,「戦後のベビーブーム世代(団塊の世代)」が65歳以上に到達する2015年までに実現すべきことを念頭に置いて,中長期的な視点で対策を検討された。
ここでは特に,介護予防の充実が強調された。
また,地域包括ケアが機能するためには,関係者の連絡調整,サービスのコーディネートの役割を担う機関が必要であるとして,在宅介護支援センター等の強化を求めた。
この後,2005年と2008年,2011年に介護保険法が改正されている。
特に2011年の改正では,地域包括ケアシステムの視点が示されており,この2015年の高齢者介護の影響がある。
認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)策定 2013年
オレンジプランは,2012年に厚労省が公表した「今後の認知症施策の方向性について」や,認知症高齢者数の将来推計などに基づいて,今後5か年の計画をまとめたものだ。
標準的な認知症の状態に応じた適切なサービス提供の流れ(認知症ケアパス)を作成し,普及させること。
地域での生活を支える医療・介護サービスを構築することなどが盛り込まれた。
また,本人・家族を支援するため,認知症カフェの普及を目指した。
認知症カフェは,認知症の当事者・家族・地域住民が集い,情報交換などを行うピア・サポート的な場である。
2014年の介護保険の改正では,地域包括ケアシステムの構築についての視点が示され,このオレンジプランの影響を受けている。
地域医療・介護総合確保推進法 2014
「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」通称「地域医療・介護総合確保推進法」では,団塊の世代が2025年に75歳以上の後期高齢者に到達する,いわゆる2025年問題に向けて,医療や介護を必要とする後期高齢者が急増するため,新たな基金の創設,地域における効率的かつ効果的な医療適用体制の確保,地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化等が定められた。
認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)策定 2015年
新オレンジプランは2025年問題に向けて,オレンジプランを改定したものだ。
主な内容としては,
- 認知症への理解を深めるための普及・啓発
- 若年性認知症施策の強化
- 家族・介護者への支援
- 認知症の人も含めた地域づくりの推進
などが挙げられた。
介護保険法改正の変遷
2005年の改正
- 地域支援事業の創設
- 施設介護サービスと居宅介護サービスの居住費と食費が介護報酬がはずされ,自己負担となる
- 地域密着型サービスの創設
- 地域包括支援センターの創設
- 事業者・施設に,介護サービス情報の公表を義務付け
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)の更新制を導入
地域支援事業とは,市町村が中心となり,次の2つを目的とした事業。
- 地域住民ができるだけ要支援・要介護状態とならないよう支援すること
- 介護が必要になっても住み慣れtら地域の中で自立した日常生活が営めるよう支援すること
2008年の改正
2008年の改正では,すべての介護サービス事業者は,法令遵守責任者を選任しなければならないとした。
2011年の改正
- 地域包括ケアシステムの5つの視点が示された
- 地域密着サービスに24時間対応の定期巡回・随時対応型訪問介護看護,複合型サービスが創設された
- 地域支援事業に介護予防・日常生活支援総合事業が創設された
- 研修を受けた介護職員による一部の医療行為(痰の吸引等)の実施を可能とした。
2014年の改正
2014年の改正では,地域医療・介護総合確保推進法の影響が大きい。
詳しい変更要件は,そこでまとめる。
地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(地域医療・介護総合確保推進法) 2014
いわゆる地域医療・介護総合確保推進法は,2025年問題に対応するため,効率的かつ質の高い医療提供体制・地域包括ケアシステムの構築を目指し,関係する法律を整備した。
新たな基金の創設と医療・介護の連携強化
在宅医療・介護の基盤整備のため,消費税増収分を活用した新たな基金を都道府県に設置
医療と介護の連携強化を図るため,厚生労働大臣が基本的な方針(総合確保方針)を策定
地域における効率的かつ効果的な医療体制の確保
医療機関が都道府県知事に病床の医療機能を報告。都道府県はそれをもとに地域医療構想(ビジョン)を医療計画において策定
地域医療を強化するため,医師確保の支援を行う地域医療支援センターの機能を法律化
医療事故に関わる調査機関を設置(医療事故調査・支援センター)
地域包括ケアシステムの構築
全国一律であった予防給付(訪問介護・通所介護)が,市町村の地域支援事業の介護予防・日常生活支援総合事業(新しい総合事業)に再編
各市町村において認知症ケアパスの作成,認知症が疑われる本人や家族に早期に関わる認知症初期集中支援チーム,認知症地域支援推進員の配置
各市町村で,生活支援コーディネーター(地域支えあい推進員)の配置
各市町村で,地域ケア会議の開催
費用負担の公平化
公費を使い,低所得者の第1号保険料を軽減
一定以上の所得のある利用者の自己負担を2割へ引き上げる(月額上限有)
低所得者の食費・居住費を補填する特定入所者介護サービス費(補足給付)の要件に資産等を追加
その他
有料老人ホームに該当するサービス付き高齢者向け住宅も住所地特例の対象とする
特別養護老人ホームの新規入居者は,原則要介護度3以上
都道府県が持っていた居宅介護支援事業所の指定権限を市町村に移譲する(2019年3月までに)
できれば多くの方に読んでいただきたいと思っております。
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