前回,コミュニケーションの基礎について書いたけど,実はこの記事を書きたくてその前段として書いたものだった。
介護の実習などにいくと,職員に「じゃあ,コミュニケーションをとっておいて」と言われて,デイルームに放置されてしまう,なんてこともあるだろう。
で,実際にコミュニケーションをとろうとしても,なかなか難しい。
ここでは,認知症の方とコミュニケーションをとるときに,どのような方法があるのか。ちょっとしたコツやテクニックを紹介する。
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目次
注意を向けてもらう
たとえば利用者の方が過ごしておられるデイルームで,
「これから,レクリエーションをはじめまーす。」
と言ったところで,反応してくれる認知症の方はどれくらいいるだろうか。
もともとこちらを見ていた人なら反応するかと思うが,見ていない人は反応しないだろう。
認知症の有無に関わらず,あるものに注意が向いていると,他の情報が入りにくくなってしまう。
例えば,この動画を見て,白い服を着た人が,バスケットボールを何回パスしたか数えてもらいたい。
正解は,15回。
さて,ではゴリラが画面を横切ったことに気がついただろうか?
Chabris とSimonsがハーバード大学の学生にこの実験を行ったところ,約半分の学生がゴリラを見つけられなかったそうだ。(http://www.theinvisiblegorilla.com/gorilla_experiment.html)
このように,複数の情報からある情報について注意を向けることを選択的注意という。
たとえば,パーティ会場のような場所でも自分の名前を呼ばれるとそれに気がつくことができる,カクテルパーティー効果は有名だ。
ところが認知症高齢者の場合,逆に選択的注意を自分に向けてもらわないと,なかなかコミュニケーションが難しい。
例えば,後ろから話しかけても,「音声・声」といった情報のみでは,そちらに注意が向かず,気がつかない(認知できない)ことが多い。
そのために,視界に入る,身体に触れるなどして,まず自分に注意を向けてもらって,それから話しかける必要がある。
視界に入る,身体に触れるは,とても基本的なことで大切なことだ。
これをするだけで,驚くほどコミュニケーションがスムーズにできることがある。
こちらではちゃんと話しかけたりしたつもりなのに,本人が反応しないと,
「認知症が重くなって反応しなくなってる」
と介護者は判断しがちだが,実は単に注意が向いておらず,介護者の声が認知できてないだけなのかもしれない。
難聴の確認
初めて会う方などは,難聴で全く反応できない方もいる。
その時も先と同じように,相手の視界に入り,手を握ったりしながら,話しかける。
自分が難聴だと自覚している人だと,「こちらの耳が聞こえづらい」など教えてくれるが,
介護者も自分から,「こっちの方から話した方が聴こえますか?」など,確認するようにするとよい。
話し方
こちらが話をするとき,少し大きめな声で,単語を区切って話した方が,理解しやすい方もいる。
普段のスピードで話すと,認知症の方は理解できないことがある。
人間は,耳で言葉を聴きながら,頭で理解するという処理を同時に行っている。だから,あまりに長い文章だと,言葉の意味を処理しきれなくて,理解できないことがある。
だから難聴になると,言葉を聴くことに集中してしまい,理解が追い付かなかったりすることもある。
話しかける時,単語を区切って,
「今日は/暑い中/お越しいただいて/ありがとうございました。」
のように話,「/」の部分で,利用者が「うん」と言えるくらいの間を空けて,
処理できる時間を作ってあげると,スムーズにコミュニケーションができることがある。
話しかけ方
基本的には,どんな話をしても良いが,介護を始めたばかり,実習生などは,最初にどのように話しかけてよいのかわからないことが多い。
よく「天気の話」から話しかけるというのを聴くが,それも一つの手だ。個人的には,気温の話の方が,四季と絡むので話をつづけやすい。
気温の話をする
「今日は寒い(暑い)ですね~。」
「今日は寒くなる(暑くなる)そうですよ~。」
などと話しかけて,
「〇〇さんは,冬(夏)は好きですか?」
などとつなげる。
テレビの話をする
デイルームなどでテレビを見ている利用者さんがいるとする。
テレビを一緒に見ているだけだとそのままだが,利用者さんにテレビの内容を話すとコミュニケーションになる。
「〇〇で△△があったらしいですよ。」→「〇〇さんは,◇◇に行ったことありますか?」
「〇〇関が勝ったって。」→「〇〇さんは,お相撲好きですか?何かスポーツやっておられましたか?」
「あの犬,かわいいですねえ。」→「〇〇さんは,動物はお好きですか?」
「あの俳優さん,知ってます?」→「〇〇さんは,好きな俳優さんとかいますか?」
「刑事さんってかっこいいですねえ。」→「〇〇さんは,あこがれの仕事とかありますか?」
一緒に作業をしながら話す
中には,話すことが苦手な人がいる。
そういう時には,何かの作業を一緒にしながらだと話しやすいこともある。
話しかけることを意図した独り言でもよい。もちろん独り言でも相手の視界に入って,自分に注意を払ってもらえていることが大前提だが。
(タオルなどを一緒にたたみながら)「〇〇さん,上手ですねえ。」→「こういうお仕事,やられていたんですか?」
(レクゲームなどをしながら)「難しい!(意図した独り言)」→「〇〇さんは,こういうの得意ですか?どうすればいいと思いますか?」
自己開示して話す
いままで,質問の話ばかりだったが,自己開示して相手に話しかける方法もある。
「私,広島出身なんですよ。」→「〇〇さんは,広島行ったことありますか?」or「〇〇さんは,どちらのご出身ですか?」
「私,21歳なんです。〇〇さんは,20歳くらいの頃,何をされてましたか?」「その時,好きな人とかいましたか?」
相談したり失敗談を話す
利用者さんに相談したり,失敗談を話す方法もある。これも立派な自己開示だ。
「私ね,人付き合いがあんまり上手くいかなくて・・・(具体的な内容)。どうすればいいと思います?」
「初めてあった人と話すとき,私緊張しちゃうんですよね。」
「最近,彼氏(彼女)と上手くいってなくて・・・」
「父親と昨日,けんかしちゃって・・・」
「昨日,こんな失敗をして・・・〇〇さんは,そういう失敗したことないですか?」
私自身も,特養で利用者さんによく恋愛相談をしていた。
利用者さんは,いつも嬉しそうにいろいろとアドバイスをしてくれた。
特に特養やグループホームは,利用者さんにとって生活の場だ。その生活の場では,常に「介護する側」と「介護される側」が明確になるのではなく,「一緒に生活する人」という感覚で,話しかけた方が,利用者さんによっては上手くいく場合も多い。
外見を褒める
「あ,格好いい時計ですねえ。」
「かわいい洋服ですねえ。」
よく利用者さんで,
「私は,身体が悪くて,頭が悪くて・・・」
と話す方がおられるが,私はそれに対して,
「身体が悪くても,頭が悪くても,〇〇さんは顔がいいじゃないですか!」
というのが常套手段だった。
実際,外見を褒められると男性も女性もテンションがあがって,明るい空気になる。
まとめ
いろんな話しかけ方,コミュニケーションのきっかけについて書いたが,これらは大前提として,自分に注意を向けてもらっている状態でないといけない。
そのためには,まず相手の視界に入り,目を合わせたりして話したり,肩や手に触れて話すことが重要になる。
この辺の技術を応用すれば,よくある介護拒否などにも対応しやすくなる。(参照:「入浴拒否への対応」)
できれば多くの方に読んでいただきたいと思っております。
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