最近は,「高齢になっても仕事をしてもらおう!」という機運が高まっている。(参照:「高齢者クラウドの研究開発」http://sc.cyber.t.u-tokyo.ac.jp/index.html)
で,それはとてもいいことだと思うし,本人の健康のためにもなると思う。
「仕事付き高齢者向け住宅」なんていうのもできている。「サ高住」ならぬ「シ高住」だ。
で,「仕事」と「QOL」に関わる理論として,ソーシャル・サポートの授受の理論がある。
ここでは,ソーシャル・サポートの授受について,まちづくりに関する雑誌に論文が載っていたので紹介する。
ここではひとまず,この論文の前半でSSRについてまとめてあったので,その部分のみ紹介して,
また後日,この論文の後半の事例について紹介する。
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目次
論文の概要
福井美知子(2010).「高齢者福祉のまちづくり」におけるソーシャル・サポートの授受(SSR)について-「人生の現役」づくりとまちづくりと福祉の関係性-.創造都市研究e,5(1),1-19.
この論文では,高齢者福祉のまちづくりについて検討する上で,社会福祉学や福祉政策論などで注目されているソーシャル・サポートの授受(SSR; Social Support Reciprocity)の理論に注目し,このSSRの視点をまちづくりに反映することによる可能性について論じている。
基本的には,SSRの理論について概観し,まちづくりへの応用可能性について述べ,実際に行われている事例をSSRの視点から検討している。
ソーシャル・サポートとは
まず,ソーシャル・サポートについて考えてみる。
「ソーシャル」=「社会的」
「サポート」=「支援」
となるので,簡単に直訳してしまうと,「ソーシャル・サポート」=「社会的な支援」となる。
学術的には,「個人が生活していく上で,周囲から受けるさまざまな支援」をさし,
福井はNorbek(1986)などの定義をもとに,
①情緒的側面:同情,共感,配慮など,人と人との感情的な結びつきに関係するサポート
②手段的側面:家事や外出といった日常生活行動へのサポート
と定義している。
このサポートには,
・問題を解決するために必要な(人的・物理的)資源の提供
・資源を手に入れることができるような情報の提供
の2つの側面に大別される。
ソーシャル・サポートの授受(SSR)とは
では,その「ソーシャル・サポート」の「授受」とは,どういうことかというと,文字通り,
人にそのような支援を受けるだけでなく,自分からも支援を提供する,
ということになる。
福井は,林・岡田・白澤(2006)から「ソーシャル・サポートの授受(SSR)の理論」を紹介している。
SSRの理論とは,
(物理的なだけでなく,精神的なサポートもふくめて)「人から支援をうける(受)」だけでなく,「人に支援をする(授)」だけでもなく,その両方をもっている人(相互性のある人)が,QOLが高いという仮説のことである。
福井の論文では,この仮説を支える先行研究として,「ボランティアのソーシャル・サポート」,「ソーシャル・サポートの授受と主観的幸福感」,「独居高齢者と子どもとのサポート授受」,「高齢者の生きがいとソーシャル・サポート・ネットワーク」,「地域包括支援センターの役割」,「離島でのソーシャル・サポート」などを紹介している。
くるみやの考察
ソーシャル・キャピタルとの関連
ソーシャル・サポートの授受(SSR)と強く関係しそうな概念として,ソーシャル・キャピタルが挙げられる。
ソーシャル・キャピタルは,直訳すると社会資本となるが,基本的には,地域への信頼関係や人間関係のことである。
(広義には,人間関係のみではなく,地域にある施設や病院,学校などの物理的な資本も含めて,ソーシャル・キャピタルと呼ぶ研究者もいる。)
このソーシャル・キャピタルと高齢者の健康,精神的な健康が関連することを示す研究もある。
通常,「ソーシャル・キャピタルが高い」とは,その地域に住む人が,地域の信頼感が高い,良好な人間関係を築いている,ということを示すので,
ソーシャル・キャピタルとソーシャル・サポートの授受は相関していると推測される。
そして,SSRの理論が正しければ,ソーシャル・キャピタルが高ければ,SSRも活発であり,その地域の人のQOLも高い,ということにつながると考えられる。
高齢者だって支援したい
「高齢者福祉」は,現状,高齢者は支援をうける存在であり,支援をする存在としての視点が,あまりないように感じられる。
実際に,高齢者施設では,利用者は「支援をする対象」であり,利用者が誰かを支援するという考え方は,あまり定着していないように思われる。
私はボランティアを積極的にしている高齢者の方と話をする機会があり,その方はこのように言っていた。
「定年退職後,『やっと自由になれた!』と思って,10年くらい,旅行に行ったりいろいろ遊んだりした。
そうしているうちに,『何か社会の役に立ちたい』という気持ちが出てきて,ボランティアをはじめるようになった。」
施設の利用者はどうだろうか。
私が施設で,例えば洗濯物をたたんでいると,「手伝おうか?」と話しかけてくれる利用者さんは多くいた。
男性の方でも,何かお願いしてみると,喜んでやってくれたりする。
こういうこともあり,認知症であっても,利用者を「誰かを支援する存在」としてとらえ,「利用者さんから支援を引き出す」支援がその利用者のQOLの向上につながるんじゃないかと思っていて,現在研究をすすめているところだ。
これはまさに,SSRの理論だ。
実際に,このようなことを実践している施設もあるので,また紹介したいと思う。
できれば多くの方に読んでいただきたいと思っております。
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