介護職の人は,研究に対してハードルがあるよね(「現場と研究との距離」)っていう話を書いたけど,介護の研究を介護職がやることは,介護職の地位を向上させるために絶対必要だ(「介護職が研究をすることの必要性ー専門性を高めるためにー」)。
研究ってどういうものなのか「介護研究の意味と意義」で説明してあるけど,ここでは介護現場で,研究をどう進めていけばいいのか,ざっとした流れを解説していく。
それぞれの部分は,詳しく書こうと思えば,いくらでも詳しく書けるので,ここでは,本当に,ざっとした流れを書くので,これを見て,「研究ってこういうモノなんだ。」というのをつかんでください。
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目次
研究テーマを決める
前回(介護研究の意味と意義)に引き続き,リサさんは先輩のケンゴさんに,研究についての相談をしています。
「先輩~,やっぱり研究ってどうやったらいいかわかりません~。何からやったらいいですか?」
「う~ん,まず何の研究をやるか決めるところからなんだけど。」
「わかりませ~ん。」
泣きつくリサさんに,ケンゴ先輩は優しく説明しました。
「何の研究をやるのか。そのテーマを決めるところからはじめよう。
普段の介護現場で感じる,いろんな疑問やアイディアが,そのまま研究テーマになるんだよ。
『この部分は,このように改善したら,もっと良いのではないか。』
『どのような時に,この利用者さんは,不穏になるんだろう。』
というような疑問を普段感じることはない?」
「毎日感じます。でも,そんなんで本当にいいんですか?」
「本当に現場で感じる,素朴な疑問で良いんだよ。
いや,むしろ素朴な疑問の方が良い。
実際には,介護現場の研究は,ほとんど行われていないのが現状なんだ。だから,現場で当たり前に行われていることが,実は新しいこと,ということはたくさんある。普段やってることで,『本当にこれは意味があるんかな。』って思うようなことでもいいよ。
この素朴な疑問というのが,介護職じゃないと出てこないものがある。」
「うーん。」
「たとえば,『利用者さんが食事をしている。』という現場をみて,それぞれの専門職は,次のようなことを考えるかもしれない。
看護師 ⇒ 服薬のこと
栄養士 ⇒ 食事の栄養や食事形態のこと
OT ⇒ 自助具のこと
ST ⇒ 姿勢のこと
では,介護職は?というと,
介護職 ⇒ 食事をスムーズに進める介助法・本人に楽しんでもらえる食事
そういうことを考えるんじゃないかな?」
「はい,私はそういうことを考えます。」
「例えば,お酒が好きな利用者さんがいて,介護職がお酒の提供を提案して,看護職が反対して議論になる。なんていうのは,介護現場あるあるだ。これは,どっちが良いとか悪いとかではなく,それぞれの職種で視点が違うからで,だからこそ,連携して仕事を進めていく必要があるわけだよね。
つまりね,介護職には,介護職にしかない視点があるんだよ。
そして,この視点から出発する研究は,介護職にしかできない。
介護福祉学は,介護職が研究しないと,発展していかない,ということをわかってほしい。」
「なるほど。それぞれの専門的な視点があって,その視点から出発する研究かあ。
普段の介護であまり意識していないけど,そういう研究をした方がいいんですねえ。
でも,素朴な疑問って,逆になんか難しいなあ。普段の介護からアンテナ張ってなきゃダメですねえ。」
「そうだねえ。でもきっとあると思うよ。まずは,大雑把でもいいから,テーマを決めてみよう。」
「はい,わかりました。」
リサーチ・クエスチョンを立てる
リサさんは,ある程度研究テーマが決まったようです。
「先輩,研究の件なんですけど。なんとなく,やりたいことが決まりました。」
「おお,何をやるの?」
「やっぱりアロマをやってみようかなあ,って。実際,私もアロマ好きなんで。それに,利用者のAさん,奥さんが時々来て,アロマ焚いているじゃないですか。その日はAさん,やっぱり落ち着いているんですよね。」
「なるほど,いいんじゃないかな。じゃあ,アロマのどんな効果を研究しようか。」
「どんな効果,ですか。うーん。。。」
「ゆっくりでいいよ。テーマを決めたら,それについて具体的に何を明らかにするか決める必要があるんだ。これを『リサーチ・クエスチョン』という。
たとえば,『利用者が食事をスムーズに食べる介助法』というテーマを決めたら,具体的に『自助具を活用することで,改善するのか』,『食前にパタカラ体操を取り入れると良いのか』などのリサーチ・クエスチョンを立てることができる。
通常,ひとつの研究テーマから,いくつかのリサーチ・クエスチョンが出てくるはずなんだ。まずは,そのうちの一つに取り掛かろう。」
「私の場合は,アロマだから。。。」
「リサさんはアロマにどんな効果があると思う?」
「落ち着くと思います。」
「Aさんは,アロマを焚いて,具体的にどんな風に変わったと思うのかな。」
「えーっと,声を荒げることが少なくなります。あと,普段は眠るのに時間がかかりますけど,奥さんが来てアロマを焚いた時は,わりと早く寝る気がします。」
「それはどちらもリサーチ・クエスチョンになるね。」
「じゃあ,『アロマを焚けば,声を荒げることが少なくなるのか』を研究すればいいですかね。」
「そうだね。立派なリサーチ・クエスチョンだと思う。リサーチ・クエスチョンは,Yes・Noで答えられるものがわかりやすくていいと思う。」
「わかりました。ありがとうございます!」
リサーチ・クエスチョンがしっかりしていれば,研究方法はおのずと決まってきます。このとき,倫理的・経済的に問題がなく,実施可能かどうか考えましょう。例えば,本人にとって苦痛になる可能性がある実践,他の利用者さんの迷惑になるような実践をやることは,倫理的に問題があります。また,新しい機器を導入するなど,費用がかかってしまなど経済的な問題をクリアできるかも検討する必要があります。その他,時間的側面や人的側面など,本当に実施可能なのか検討することが必要となります。
おわりに
ここまで決まれば,いよいよ研究の実施計画に入る。
研究は,記録を集めて,その記録から結論を導くことが必要だ。(介護研究の意味と意義)
そこで必要なことは「介護研究の進め方(研究計画を立てる)」に続く。
できれるだけ多くの方に読んでいただきたいと思っております。
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