介護職員の方に,「研究をやりましょうよ!」といっても,ちょっと抵抗感がある人が多いように思う。(「現場と研究との距離」)
でその一つの理由に,「研究って何かわからん!」っていうのがあるんじゃないかって思う。
ここでは,介護士のリサさんに登場してもらって,研究ってなんだろう,そして研究することにどんな意義があるのか,解説してみようと思う。
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目次
研究って何?
病院で働いている介護士のリサさんは,とても困っていました。仕事を始めて今年で3年目。
リサさんの病院では「三年目研修」と呼ばれるものがあり,職場内での研究発表会があるのです。
ところが,リサさんは研究とは何をすればよいのか,まったくわかりません。
リサさんは介護福祉士で,その資格をとるためにまじめに勉強してきましたが,研究の方法など,どのテキストにも載ってなかったのです。
困ったリサさんは,先輩のケンゴさんに相談しました。
「先輩!私,三年目研修で研究発表しなきゃいけないんですけど,何をどうすれば,まったくわからないんです。研究のやり方,教えてください!」
「そうかあ,リサさんももう3年目かあ。僕も三年目研修は,何をすればわからなかったなあ。」
「そうなんです。いままで読んだ本にも,研究の方法なんて,何もかいてなかったし。。。」
「うん,わかった。じゃあ,リサさんは,何について研究がしたい?最近,仕事の中で,『これってどうなのかなあ?』って思うことある?」
「そうですねえ。。。」
リサさんは,しばらく考え込みました。
「あ,そう言えば,この間テレビで,認知症の方にアロマが有効だ,っていうのを見ました!それについて研究したいです!」
「うん,おもしろそうじゃない。じゃあ,それについて研究してみよう!」
「はい!じゃあ,アロマについての本をいろいろ勉強して,それをまとめて発表してみます!」
「あ,リサさん,ちょっと待って。」
先輩のケンゴさんは,ちょっと考えて言いました。
「リサさん,本を読んで発表するだけじゃあ,それは研究じゃなくて,ただの勉強だよ。」
「先輩・・・。ちょっと何を言ってるのかわかんない。」
「うん,研究って何なのか,まずはそれからだね。」
ケンゴさんは,考えながら説明しました。
「『研究』っていう言葉は,いろんな場面で使われるよね。『相手ピッチャーを研究する。』『企業を研究する。』『料理を研究する。』その中で,三年目研究で求められているのは,『科学的な研究』なんだ。」
「科学的。。。私には無理そう。。。」
「いやいや,無理じゃないよ。僕もやれたんだし。『科学的』というのは,簡単に言えば『データに基づく』っていうことなんだ。介護の現場での「データ」は,「記録」なんだよ。」
「記録に基づく,っていうことですか?ケース記録なんかでもいいんですか?」
「そう。だから,ちゃんと記録を取って,それにもとにいろいろ検討すれば,それが研究ということになる。」
「本を読んだり,いろいろ教えてもらう勉強ではなくて,自分たちで実践してみて,その記録をもとにいろいろ考える,っていうことが研究っていうことですね。」
「そうだね。」
「じゃあ,普段やっているケアとあまり変わらないような。。。」
「そうかもしれない。ただ大事なことは,何か新しいアプローチや介入をして,その効果を確かめることが研究なんだ。」
「なるほど,『これから何をやるか』じゃなくて,『やった結果どうなったのか』という評価の部分が研究にあたるってことですか?」
「リサさんは,呑み込みが早いね。その通りだと思うよ!」
介護を研究する意義
「なにかアプローチや介入をしたときに,その効果をたしかめるのは,必要だと思います。でも,なんでそれを発表しなきゃいけないんですか?私,人前で話すのは苦手なんですよね。。。」
「うん,じゃあ,研究をして,発表する意義について,考えてみようか。」
ケンゴさんは説明をはじめました。
「施設なんかで,『こうした方がいいと思う。』っていうことはいっぱいあるでしょ?でも,それを周りに言ったとしても,『それはあなたの思い込みでしょ?』と言われるかもしれない。」
「はい,実際,そう言われたことは,いままで何度もありました。」
「じゃあ,『こうした方がいい。』という証拠を示せばいいんじゃないかな。例えば,『ある利用者さんのトイレの時間を少し早めた方がよい。』という提案をするとき。普段のトイレの時間や排泄の記録に基づいて,そういう提案がされるよね。」
「はい。」
「さらに,トイレの時間を変更して,どのように排泄の記録が変わったのか,その記録があると,『あ,やっぱりトイレの時間を早めて良かったんだ』ってなるよね。」
「はい,それが評価の部分ですよね。」
「そう。こうした記録がもとになって,
『トイレの時間を早めることで,以前よりもトイレで排泄できるようになった。』と言うことができる。
もし,そこに記録がなかったら,『トイレの時間を早めることで,以前よりもトイレで排泄できるようになったと思う。』
となる。」
「はい。」
「この二つは,大きく違うよね。『なった。』と言い切れるのは,事実だけど,『と思う。』とついてしまうのは,その人が思っているだけのことだ。話していることが事実であれば,周りの人の納得も得やすいよね。」
「なるほど。じゃあ記録するといっても,その違いがわかるように記録する必要がありますね。」
「そうなんだよ。そしてその記録があれば,他の利用者さんも同じようなケアができるかどうか,検討することができる。
先輩が,『こういう時は,こうすればいいんだよ。』と,ただ自分の経験を言うだけじゃなくて,『以前,利用者さんでこういう人がいてね,その時にこういうアプローチをしたら,こういう結果が出たんだ。』と,ちゃんと記録を見せて教えてくれたら,説得力が全然違うでしょ。
そして,それは家族や他の施設の人たちに説明する時も,そういう記録があるかないかで,全然説得力が違ってくる。」
「なるほど。そういう力をつけるための,三年目研修。。。」
「まあ,そういうことなんじゃないかな。」
研究の発展
人前で話すことが苦手なリサさんは,まだ不満そうです。
「研究する意義は,わかりました。でも,やっぱり発表は。。。そういえば先輩は,学会でも発表されてますよね。」
「うん,まあ。」
「なんで,そんなことするんですか?別に,施設内で研究した内容を共有できればいいじゃないですか。」
「うーん,そうだなあ。。。」
ケンゴさんは,言葉を選びながら話しました。
「さっき話した内容で言うとね,『ある利用者はトイレを早めた方がいい』という事実を記録から明らかにできたわけじゃん。一人の事例についての研究だから,こういう研究を『事例研究』という。」
「あ,聴いたことあります。」
「じゃあ,同じことが,認知症のAさんやBさん,他10名くらいにあてはまったらどうだろう。
そうすると,『△△病院の認知症の利用者の方は,トイレの時間を〇〇のように調整すると,トイレで排泄できるようになる。』と言えるかもしれない。
『△△苑』と限定したのは,他の施設でもそれが当てはまるかどうか怪しいからなんだけど。
だから,学会などで発表して,他の専門職と,この知見を共有する。
そして,他の施設でやってみても同じような結果が得られれば,
『〇〇県の病院の認知症の利用者の方は・・・』
『関西地域の病院の認知症の方は・・・』
『日本の病院の認知症の方は・・・』
『日本の入所施設の認知症の方は・・・』
という形で,事実の範囲が広がっていくかもしれない。
これは,学会で共有されないと,ほぼ不可能なことだよね。」
「はい。でも,壮大ですね。。。」
「そうだね。でも,介護職の視点で介護を実践する人は,介護職しかいないでしょ?だから,介護職の人たちも研究しないといけないんだ。
学会発表で事実を共有することは,介護福祉学の発展には必要なことなんだよ。
もしリサさんが学会で発表したら,それが新しい介護福祉の常識になるかもしれないんだよ。」
「うええ,私には無理です。」
「全然,無理じゃない。それに学会で他の人の発表を聴けば,他の施設でどんな取り組みがされているか知ることもできるし。」
「あ,それは知りたいかも。」
「ね,学会はそうやって,実践の結果を共有し合う場なんだ。別に失敗した話をしてもいいんだよ。だから,僕は学会に参加するのが好きなんだ。」
「うーん。。。研究がどういうもので,その意義もわかったので,とりあえず目の前の三年目研修,頑張ってみます。
ありがとうございました!」
おわりに
介護職には介護職にしか気がつけない,利用者の特徴や介護の改善点がある。
その部分の研究は,介護のためにはすごく大事なのに,他の職種の人は気づけないから,絶対にできない。
介護職が介護の研究をしないと,介護の専門性は高くならない。(介護職が研究をすることの必要性ー専門性を高めるためにー)
じゃあ,どうやってやればいいの?っていう疑問は,「自分たちの介護を研究したい!研究方法のまとめ」で紹介する。
できれるだけ多くの方に読んでいただきたいと思っております。
SNSなどでシェアしていただけると,とっても嬉しいです!
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