介護保険の仕組み

投稿者: | 2018年2月26日

2018年の介護保険の改正について,前回書いたので,介護保険法について一応まとめておく。

介護保険制度は,社会全体で介護を支える新たな仕組みとして,2000年4月に施行された。
原則として,制度は5年ごと,介護報酬は3年ごとに見直される。
高齢化が進んでいくことは,以前からわかっていたし,それに対応するためにいろいろな政策がすすめられた。
介護保険は,その政策と一緒になって作られ,改正されていったものだ。(詳しくは,「高齢者福祉政策と介護保険」)

措置から契約へ

介護保険制度が施行される前から老人ホームというものはあった。

このころは,介護がないと暮らせない高齢者本人やその家族らが市町村に,「介護が必要です!」と申請して,
市町村が「じゃあ,〇〇さんは,どこどこの老人ホームに入ってね。」
と,どのサービスを受けるかすべて市町村が決めていた。
これを措置制度という。

措置制度は,老人福祉法に制定されていて,現存している。
養護老人ホーム,特別養護老人ホーム,軽費老人ホームなどが,老人福祉法に制定されている施設で,措置入所の対象となる施設だ。
(詳しくは,特別養護老人ホームの「特別」って何?

介護保険制度が施行されてからは,この措置契約に変わった。
つまり,いままでは市町村が「〇〇さんはA施設」と決めていたのを
利用者本人が,「AとBだったら,Bに行きたいな。」と決めて,サービスを提供する施設や事業所などと契約して,介護保険の給付を受けて利用できるようになった。
これは別に入所に限ったことじゃなくて,デイサービスや訪問介護サービスなんかも,それぞれの事業所と契約してサービスを受ける。

利用者は,自分に合った介護サービスを要介護認定の範囲内で自由に選ぶことができるようになった。
「要介護認定の範囲内」というのは,それぞれの要介護度によって,介護保険の支給限度が決まっており,それを超えた分は全額自己負担となってしまう。

まあとにかく,「措置から契約へ」というキーワードのとおり,利用者は自分でサービスを選べるようになった。

介護保険の財源

介護保険という名前なのだから,すべて保険料で財源が賄われているのかといえば,実はそうじゃない。
介護保険制度では,実際に介護を行う際に使われる「介護給付費」と,要介護状態にならないために使われる「予防給付費」というものがあって,
その50%が保険料,残りの50%は市町村や都道府県,国からの公費で賄われている。

介護給付費は大きく2つにわかれていて,
特養や老健などに使われる施設等給付費は,国20%,都道府県17.5%,市町村12.5%,介護保険料50%
デイサービスや訪問介護などの居宅給付費は,国25%,都道府県12.5%,市町村12.5%,介護保険料50%で賄われている。

また,各市町村で介護保険サービスにばらつきが出るのをおさえるため,国からは調整交付金(国の負担のうち約5%)を設けている。
例えば後期高齢者が多い市町村では,その分介護保険料も多くなり,市町村の財政が圧迫されてしまう。
そこで,市町村は国から調整交付金から補助を受けることができる仕組みになっている。

また,例えば保険料の未納などで,市町村が赤字になってしまったときに対応するため,
都道府県も財政安定化基金というものを設けて,市町村に貸与する仕組みをつくっている。

保険者

通常の保険で考えると,保険会社が「保険者」で,保険に加入している人は「被保険者」という。

介護保険の場合,保険者は市町村と東京23区となる。
保険に関するバックアップを国や都道府県でやるから,原則介護保険は各市町村で,責任をもってやりなさい。ということだ。
そこで,市町村3年を1期とする市町村介護保険事業計画を定めることが義務付けられている。
じゃあ,国や都道府県は何もしないかというとそうでもなくて,国は「基本指針」,都道府県は「介護保険事業支援計画」を3年を1期として定めることが義務付けられている。

市町村は,介護保険に関わる収入や支出も管理しないといけないから,介護保険特別会計を設けることも義務付けられている。

被保険者

介護保険の被保険者は第1号被保険者と第2号被保険者がある。

被保険者の種類

第1号被保険者とは,65歳以上の者
第2号被保険者とは,40歳から64歳までの者で,健保組合,全国健康保険協会,市町村国保などの公的医療保険加入者

公的な医療保険に加入していれば,40歳になった時点で介護保険第2号被保険者となり,医療保険の保険料と併せて,介護保険料が徴収される。
逆に言えば,公的医療保険に加入していない者は,第2号被保険者とならない。
また,外国人も3か月以上国内にいれば,国民健康保険に加入するので,40歳以上であれば介護保険に加入することができるし,年齢要件を満たせば第1号被保険者になることもできる。

ちなみに,生活保護を受けている人は,医療保険に加入していない人が多いが,
65歳以上であれば,介護保険の第1号被保険者となり,
40歳~64歳では,医療保険に加入している人は第2号被保険者,そうじゃない人は被保険者とはならないが,介護扶助が給付される。

給付について

第1号被保険者は,要介護・要支援の認定を受ければ,介護サービスを利用し,その利用分の9割(所得に応じて7割~9割)が保険給付される。
第2号被保険者は,介護保険法に定められている16の特定疾病の者だけ,受けた介護サービスに対して保険給付される。

介護保険法で定められている特定疾病
1.がん末期 2.関節リウマチ 3.筋萎縮性側索硬化症(ALS) 4.後縦靭帯骨化症 5.骨折を伴う骨粗しょう症 6.初老期における認知症(若年性アルツハイマーなど) 7.進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病 8.脊髄小脳変性症 9.脊柱管狭窄症 10.早老症 11.多系統萎縮症 12.糖尿病性神経障害,糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症 13.脳血管疾患(脳梗塞など) 14.閉塞性動脈硬化症 15.慢性閉塞性肺疾患 16.両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

住所地特例

介護保険は,基本的に住民票がある市町村が保険者となる。
そうすると少し困ることが起こる。

例えば,A村,B村,C村が共に過疎化が進んだ隣接する村だったとする。
ここでA村に特別養護老人ホームができた場合,A, B, Cの地域の方が入所してくる。
すると,その利用者分A村の介護が必要な高齢者が増え,B村とC村の介護が必要な高齢者が減ることになる。

そうなると,A村の介護保険財政は圧迫され,B村とC村の介護保険財政に余裕が出て,不公平感が生まれてしまう。

そのため,特養などの介護保険施設や養護老人ホーム,軽費老人ホーム,有料老人ホーム,サ―ビス付き高齢者向け住宅(サ高住)などに入所し,利用者が住所地を変更しても,
もとの住所地の市町村が保険者となる住所地特例がある。

また,住所地特例の対象者も,入所後の市町村が提供する地域密着型サービスや地域支援事業を利用することができる。

介護保険審査会

要介護認定,給付制限に関わることなど市町村の保険給付に関する処分,保険料その他の徴収金に関する市町村の処分について,被保険者は不服がある場合に,都道府県に設置してある介護保険審査会審査請求することができる。
まあ,保険者の市町村に不服がある場合は,市町村に言ってもしょうがないから,都道府県に言ってくれ,ということだ。

審査請求は,処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に,文書又は口頭で行う。(2016年4月までは60日以内だった)

この審査請求に対する裁決の後,処分の取り消しを求めることができる。

障がい者の介護

障害者総合支援法には,「自立支援給付」があり,この給付の中にはホームヘルプや施設入所などを含む「介護給付」がある。
障がい者も65歳以上になれば,介護保険の第1号被保険者になる。
この場合,介護保険法に基づく給付が優先される。

この規定があったので,障がい者が65歳以上になったとき,それまで使っていたサービスを使えなくなり,別の事業所を利用しなければいけなくなることがあった。
そのため,2018年の改正で,共生型サービスが創設されることになった。

費用負担

サービス利用者は,その費用の9割が保険給付されるため,自己負担は1割となる。
ただし,所得に応じて2割負担,3割負担の利用者もいる。

支給限度額は,認定された要介護度によって決められている。
この限度額を超えたサービスについては,全額自己負担である。

また,医療保険と同じように,自己負担額が一定の額を超えた場合,超えた分のお金が戻される
高額介護サービス費(要支援の場合は高額介護予防サービス費)という制度もある。
この制度は,支給限度額を超えて,全額自己負担になった分にも適用される。

介護にかかる費用は原則自己負担1割だが,例えば施設に入所する場合,居住費や食費は全額自己負担となる。
ただし,生活保護の被保護者や非課税世帯の低所得者に対しては,所得に応じた給付がある。
*非課税世帯でも預貯金が多くあれば,対象外!

おむつ代は,施設系サービスでは給付の対象になるが,デイなどの通所サービスやグループホームなどでは全額自己負担となる。

国民健康保険団体連合会

国民健康保険団体組合は,会員である保険者(市町村及び国保組合)が共同して,国保事業の目的を達成するために必要な事業を行うことを目的にして設立された公法人である。
全国各都道府県に設置されている。

介護保険制度では,市町村や特別区の委託を受けて,事業所からの介護保険サービス費用の請求に関する審査や支払いを行っている。
(事業所は利用者から自己負担金を受け取って,市町村に残りの給付分を請求する。その請求内容の審査。)

介護保険サービスの質の向上に関する調査や事業者等に対して指導,利用者からの苦情を受けて事業者への助言・指導(苦情処理業務)を行うことができる。

さらに,居宅サービスなどの事業や介護保険施設の運営を行うことができる。

介護サービス事業者の業務

すべての介護サービス事業者は,法令遵守責任者を選任しなければならない。(介護保険法で規定)
また,施設の数が20以上の事業者は,業務が法令に適合することを確保するための規定を整備しなければならない。
さらに,100以上の事業者は,業務執行の状況の監査を定期的に行わなければならない。

介護サービス事業者は,介護サービス情報を介護サービスを提供する事業所又は施設の所在地を管轄する都道府県知事に報告しなければならない。
都道府県知事は,報告の内容を公表しなければならず,報告に関して必要があると認めるときは,事業者に対し,調査を行うことができる。


できれば多くの方に読んでいただきたいと思っております。

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介護保険の仕組み」への2件のフィードバック

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